中国人芥川賞作家、楊逸の新作「すき・やき」を読みました。
主人公は19歳の中国人女子留学生、虹智。
彼女にとって、初めての外国である日本での生活。
高級すきやき店でのアルバイトを軸に、物語は進行していきます。日本人と結婚した15歳年上の姉、ほのかに恋心を抱いているバイト先の店長、彼女に好意をよせる韓国人留学生の柳、さまざまな背景を持つ常連の日本人客たち。
キャラクターが濃すぎるわけではなく、今現在の日本にいそうな人々が登場人物です。
特に悪役がいるわけでもなく、本当に普通にいそうな登場人物なのです。
ストーリーは、恋愛に偏るわけでもなく、日本での苦労話を強調するわけでもなく、複雑な家族事情で涙を誘うというわけでもなく、それぞれがほどよくブレンドされてストーリーに自然に入っており、まさに現代の日本にいる中国人女子留学生の日常生活そのものを垣間見ている気持ちになります。
最近は、コンビニ、ファーストフード、スーパーなどなどで働く中国人をよく見かけますし、日本人の日常生活の中での中国人の存在がそれほど珍しくなくなっていると思います。ですので、特に中国に関わった事の無い日本人の読者でも、虹智という主人公の存在を自然に受け入れ、ストーリーに入っていけるのではないかと思います。
特に山場があるわけではなく、たんたんストーリーが進んでいきますが、視点が暖かく、おおらかで、安心して読み進めていけます。
虹智と韓国人留学生の柳が日本語で会話をするシーンが何度もありますが、お互いに片言の日本語での交流なので、これが笑えます。私が北京時代に、会社のアメリカ人やインド人と中国語で会話をしていると、周りの中国人は面白がったことがたびたびありましたが、こういう感覚なんだろうなと思いました。真面目な仕事の話をしているときに、周りからちゃかされるとカチンとくる時もありましたけどね。
張麗玲さんが「小さな留学生シリーズ」で日本の中国人留学生を追った90年代の頃とはまた中国人留学生の性質も変わっているのでしょうね。もちろん視点や、どこにスポットを当ててどう紹介するか、ということもあるとは思いますが、昔ほど「日本で出稼ぎして故郷に送金しよう」という人は減っていると思います。今や中国企業が米国企業や日本企業を買収し始めている時代ですしね。
