《イエスの聖なるみ名の不思議》
(第5章)ゴート王ゲンゼリック
アリウス派(※キリスト教の異端の一派)のゴート王ゲンセリックの治世に、王のお気に入りの廷臣であったアルモゴスト伯爵がアリウス派からカトリックに改宗しました
それを聴いた王は激怒してアルモゴスト伯爵を自分の前に呼び出し、ありとあらゆる手段を使って伯爵をアリウス派に引き戻そうとしました
しかし、伯爵には脅しも甘言も役に立ちませんでした
伯爵はそのあらゆる誘いを断り、新たに得た信仰を固く守りました
ゲンセリック王は怒りを爆発させ、屈強な死刑執行人たちに、できる限りの力を振り絞って、この伯爵を固い縄で縛り上げるように命じました
その痛みは激しいものであるはずでしたが、伯爵は苦痛の表情を見せませんでした
「イエス、イエス、イエス」
と、伯爵が2.3回繰り返して言うと、突然、縄は蜘蛛の糸のように切れて、足元に落ちました
怒りが頂点に達した暴君は、今度は針金のように硬くて丈夫な牛の筋で出来た綱をもって来るように命じました
アルモゴスト伯爵は再び縛られ、王は死刑執行人たちに出せるだけの力を出して縛り上げるように命令しました
伯爵が再びイエスのみ名を唱えると、新しい綱はさっきの縄と同じように、糸のように切れました
ゲンセリック王は怒りのあまり口から泡を飛ばしながら、伯爵の足を縛り、頭を下にして木の枝から吊るすように命じました
そしてアルモガスト伯爵はこの新しい拷問に微笑みながら、両腕を胸に組んで聖なるみ名をくり返し唱えながら、まるでやわらかく心地よい寝台に横たわっているかのように、静かに息を引き取りました