これは、親にこの価値観が備わっていないと難しい事なのだが、人間社会の基本は分け合いと協力である。

この協力と分け合いの精神が育たないと、子供の社会性が身に付かない。


こんな実験がある。

2歳のお互い面識の無い二人の子供に同じおもちゃを与えると、お互い没交渉のまま自分のおもちゃで遊び始める。

その後、顔を組み立てるおもちゃで、一人には顔のパーツ、もう一人には顔のベースを与えて遊ばせる。

これは、二人で協力しなければ顔を完成させる事が出来ないのだが、2歳児ではまだ協力して遊ぶと言う認識が無く、大人が協力して遊ぶ手本を見せないと協力して遊ばない。

それが3歳児になると、大人が手本を見せなくても協力して遊び始める。


次に、2人に一つの、乗って遊ぶおもちゃを、交替で使うように言って与える。

2歳児も3歳児も、まずは早い者勝ちで先に取った方が、自分の物と主張して独占しようとする。


しかし、取り損ねた方も子供が交替する事を要求すると、2歳児の方はとりあえずは交替するのだが、交替させられた子供は、泣いたりわめいたりしていた。

すると、交替して乗っていた子供は乗っていても楽しくないので、そのおもちゃから降りてしまった。


3歳児の方は、交替を要求すると先に取った方は、2人で乗ることを提案して2人で乗ろうとするが、2人で乗っても思うように動かず楽しくない。

そして、交替を要求した子供は降りてしまった。


この2つの実験を、親がどう見るかが育児の分かれ道になるだろう。


2歳児の反応は、子供の成長にとって必要なプロセスで、交替で使えば皆が楽しく使える事を学ぶ基礎になり、それを理解させるのが親の役目。


3歳児の反応に対して、親がどの様に接するかで親の資質が分かる。

もし、2人で一緒に乗る事を提案した子供に優しさを感じて誉めてしまえば、その子は本当の社会性を身に付ける事無く成長してしまうだろう。

2人で乗る事を提案すると言う事は、相手を懐柔して自分の欲求を満たしているのであって、優しさではない。

交替と言う概念は、自分が我慢すべき時には我慢する事で、一緒に乗ると言う提案は、自分が我慢しなくても済む方法で、親がそれを誉めてしまえば子供は我慢する事を覚えずに育ち、家庭と言う小さな社会から学校と言う大きな社会に出た時にトラブルを起す原因になるが、懐柔を優しさと感じる親には何が悪いか理解する事も出来ない。



この協力と分け合いの基本が相手に「与える」事である。

監視妄想の発生メカニズム 」に書いた「与える」と「奪う」の選択実験は、とても大切な意味を含んでいる。

あの実験は、単にお金の問題ではなく、人間関系その物の有り方でもある。


これは「いじめ」の問題を考える上でも大切な事で、この原理を理解していない大人が指導しても根本的な解決は難しいだろう。


例えば「笑われる」と言う感覚。

人を笑わそうとする人もいれば、笑われる事を嫌う人もいる。


そして大人は、笑った事や笑われた事の是非を問題にするが、「笑われる」と言う事を「与える」と「奪う」の視点で捉えてみると、別の見方が出来る。


人を笑わせる人には人集まるが、自分を笑った事に怒る人には人は集まらない。

人を笑わせる人は、人に笑顔を与えているが、笑った事を怒る人は、人から笑顔を奪っている。


客に笑顔や満足を与えられるお店には人が集まり、客に笑顔や満足を与えられない店には客は来ない。


先日ルビコンの決断と言う番組で、餃子の王将の再建をやっていたが、その中にもこの要素が多分に含まれている。


業績の上がらない店の社員がリストラを心配するが、社長はリストラをしないと断言。

リストラは社員から笑顔や安心を奪う。

更に、赤字で銀行から融資が受けられなければ会社更生法に頼らなければならない状況でも、社員にボーナスを支給。


社員に対して、奪わずに与えている。


番組の最後で、王将の管理体制について話されていた。

「キャベツの量が本社で分かるようになっていて、キャベツの量で厳しく管理されている」

この話を聞いて「奪う」事で利益を得ようとする経営者は「キャベツの使いすぎ」に意識が向くだろう。

使いすぎていると感じれば「コストを下げろ」と言うだろう。


しかし、王将は違った。

売上に対してキャベツの量が少ないと、材料をケチっていないかと言う発想だ。

これも、客に対して「与える」になり、コストを下げろと言う発想は「奪う」になる。




私は王将とは縁もゆかりも無いのだが、学生の頃に本当にお世話になっている。

その番組で、もう無くなってしまったと思っていたサービスが復活した事を知って、何かとても嬉しい気持ちになった。

それが「皿洗い30分で一食サービス」

お金の無かった学生時代、何度このサービスで空腹を満たした事か。

皿洗いすると店員と仲良くなるし、店員と仲良くなればその店に行きたくなる。

お金がある時は友達皆で王将へ行き、金が無くなれば皿洗いをして食べさせてもらった。

あの時の恩愚は忘れていない。





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