私が、家で鯛の刺身をやるときは、生醤油へ良い酒を少し落とし、濃くいれた熱い煎茶へ塩をつまみ入れたのを吸い物がわりにして御飯を食べる。

私にとって、鯛の刺身は酒よりも飯のものだ。

むろん、酒の肴にしても悪かろうはずはないが、何といっても温飯と共に食べる鯛の刺身ほど、うまいものはない。

(中略)

折詰の、さめてしまった鯛の塩焼もいいものだ。

深めの鍋に湯を煮立て、鯛はまるごとに入れ、煮出したら豆腐のみを入れる。味つけは酒と塩のみがよい。

これを小鉢へ引きあげ、刻み葱を薬味にして食べるのは、飯よりも酒のときだろう。

 

折詰の冷めて硬くなった鯛を食べるのはやはり昭和だなあ、と、感じます。