みんなの前で歌ったチエは、もう以前のチエではない。

大きな壁を乗り越えたかのように、生き生きとしていた。

出会ってから一度も見せたことの無い溌剌と自信に満ちた表情だった。

その夜のキャンプファイヤーも、はにかみながらも男子生徒と楽しそうに手を組んでいた。

「よかった。連れて来て本当に良かった」

心の中でそうつぶやいた。

チエには、それまで以上に嫌われることを覚悟で、半ば強引に連れてきたが、本当に良かったと満足感を得ることができた。

3年生になっての修学旅行は実行委員に自ら立候補した。

林間学校参加というチエにとっては最も勇気ある行動がチエのその後の学校生活を大きく変えたのだ。

しかし、卒業前日までは、私とは一言も話すことはなかった。

チエ中学3年生:卒業式前日

帰りの学活で明日の卒業式の日程を終了した瞬間、

突然チエが立ちあがり私に話しかけてきた。

「せんせい・・・」

予想もしていない突然の行動に驚いた。

約2年ぶりに私の顔を正面から見つめ、声をかけてきたのだ。

周りの生徒たちも驚きを隠せなかった。

チエが私を嫌い無視していたのは、だれもが知っている。

「せんせい・・・わたし・・・」

しばし、沈黙が続いた。

全員がかたずをのみ、チエを見つめていた。

「わたし・・・わたし、先生が担任になった時、嫌で嫌でたまりませんでした。大嫌いでした。

でも・・・先生と出会ってから自分がどんどん変わって行くのが分かります。

せんせい・・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・

今は、先生と出会って・・・本当に良かったと思っています。

先生には、心から感謝しています。

今まで、本当にごめんなさい。ごめんなさい。

せんせい・・・ありがとうございます。」

チエは涙を流しながらも毅然とした態度で頭を下げた。

あっけにとられていた生徒たちが、拍手をし始めた。

ひとり二人、そして全員がチエに拍手をした。

チエの勇気に賞賛の拍手だった。

「せんせい、これで今までの苦労がぜ~んぶ消えたね」

タツジが声をかけてきた。

確かにそうだ。

この一瞬のために教師を続けてきたのかもしれない。

心の棘がやっと取り除くことができた。

明日の卒業式は、涙を流せそうな気がした。

「チエ・・・ありがとう」

涙でぐしゃぐしゃになった顔で喜びを伝えた。

「せんせい・・・なんか青春ドラマみたいだよね」

ノブコがそうささやいた。

そうさ、本物はドラマ以上のドラマなんだ。

心からそう思えた瞬間だった。