アキラを担当しているコーチは、寡黙な大学生だった。

言葉より行動というタイプで、愚痴をいったり弱音を吐いたり

をしたことが無い。少なくとも私は、聞いたことがなかった。

アキラを担当した時から、眼光鋭く「絶対に泳がせます」

最初に私に行った台詞だった。

彼も教師を目指していた。

子どもに成功体験を味わわせることがやる気をおこすことだと、

口癖のように言っていた。

「やる気なんて自然発生しませんよ。

できないやつがやる気が起きる訳ないでしょう・・・

出来てこそ、はじめてやれることを実感するのです。

だから、最初は、力ずくでもできるようにしてやること・・・

強制的だろうが、なんだろうが『できた』を体感させる・・

体感して、初めてやる気が起きるんです」

彼は、全体練習後の個人レッスンの指導カリキュラムも綿密に

作成していた。単に力ずくという訳ではなかった。

アキラの特徴と親の要望、そして、目標と留意点を明確にし、

毎回の指導をきめ細かく記録していた。

いつまでに、どこまで、どんな泳ぎで・・・目標が明確だった。

その日、彼は突然、私に声をかけてきた。

「久保コーチ・・・見ていて下さい。

今日中にアキラは、クロールで25メートル泳ぎます。

ただし、ちょっと犬かきみたいな部分もありますが・・・」

自信たっぷりだった。

確かに前週のアキラの様子を見ていると、15メートルぐらい

までは、泳げるようになっていた。

彼の指導は、全コーチの中で最もハードだった。

鬼気迫る感がしていたが、正に「情熱」そのものだった。

フォームを何度も何度も力ずくで教え込む。

そんな指導に泣きべそをかきながら必死で答えようとするアキラ。

二人が醸し出す雰囲気は、両方が泳ぎたい、泳がせたいという

願いとエネルギーが充満していた。

「アホかぁ・・アキラ。なんど同じこといったら分かるんだぁ・・・

ヒザを曲げるな・・・水の中では鼻から息を吐くんだよぉ・・・・

我慢しろ・・・我慢だ・・・我慢・・我慢なんだよう・・・・

バカヤロー・・・立ったら許さないからな・・・

もう少しだ・・・・・今までの苦労・・忘れるなぁ・・・

行けーー行くんだ・・・・」

遠慮のない罵声を浴びるアキラ。

それでも必死になって、前に進もうとするアキラ。

いつのまにか子どもたちも、コーチも全員がアキラの泳ぐ姿に

釘づけになっていた。

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