トム・クルーズ主演、監督スティーブン・スピルバーグというダブルビッグネームを連ね、総制作費1億3200万ドルという大作であり興行成績も良かったにもかかわらず、評価が極端にわれた問題作。宇宙戦争。
同名の小説を映画化したこの作品は、タコみたいな宇宙人が地球に侵略してくるも最後はバクテリアに感染して死んでしまう、という、映画インデペンデンス・デイのパロディであるマーズアタックのようなストーリーだ。確かに陳腐なのだが、実はこの宇宙戦争、実際にアメリカで起こったできごとだったのだ。
1938年の10月30日、その晩はハロウィンの前日で実にのどかな夜だった。夜の10時を過ぎたころだろうか、対向車の男が大声でSTOP!STOP!と叫んでいる。何事かと思って立ち止まると男はこういった。
「火星人が攻めてきたぞ!お前も今すぐ逃げるんだ!」
なにを馬鹿なことを言ってるんだ、そう思ってラジオをつけてみる。
「みなさま、アメリカは今人類が滅亡しようとしていることを伝えねばなりません。火星人は圧倒的な武力を持っています。彼らはニューヨークに向かっています。我々は全滅を覚悟で戦うつもりですが・・・」
全米は大パニックだった。派出所にガスマスクを求める男が現れ、教会では神に助けを求める人たちで殺到し、火星人にレイプされたと叫ぶ女性が自殺未遂をしそうになり、女子寮の少女たちは両親に別れの電話をかけ、農民たちは銃を抱えて火星人との対決に臨んだ。
しかし、人類は今日も平然と生きている。それはアメリカが宇宙人を倒したからではない。事の発端は数日前にさかのぼる。
1938年10月24日、後の市民ケーンの監督となるオーソン・ウェルズはこの頃まだ弱小ラジオ局のドラマプロデューサーだった。TBSドラマ並みの聴取率の「マーキュリー劇場」はわずか3.8%という悲惨な状況だった。
オーソン・ウェルズはひとつのいたずらを考えていた。このSFをニュース形式で流したらどうなるだろうか。
6日後の1938年10月30日、ウェルズの壮大なイタズラは始まった。
「番組の途中ですが、いったん中止して臨時ニュースをお伝えします。今日午後8時50分に、隕石と思われる巨大な物体がニュージャージー州に落下しました。続報をお待ちください。・・・新しい情報が入りました。現場から実況です。隕石と思われた物体は円筒状の形をしています。おや、蓋が開いています・・・な、中から見たこともないような生物が出てきました。」
「たいへんです!化け物が村に放火し始めました!軍隊が必死で立ち向かっていますが歯が立ちません!ひ、人が次々と焼かれています!敵は強すぎてどうすることもで・・きっ・う・・・うぐっ・・ど、毒ガスです!ワシ・・・ントン・・・D.C!」
アナウンサーは息絶える。さてこんなニュースが延々と流されるものだから、人々は逃げ出さないわけがなかった。警察にはひっきりなしに電話がかかり、ラジオ局にもクレームの嵐だった。見えない敵のために警察や消防、救急車が緊急出動し、街は逃げ惑う人々と来るまでごった返した。泣き喚く子供、気がふれてケケケと笑う女性。
まさしくそれは主役不在の宇宙戦争そのものだった。
そんなこんなで番組も終わりを告げる。
「こんばんは、オーソンです。本日は宇宙戦争をお送りしました。これは大人のためのハロウィンだったのです。」
自分が今までだまされていたと知った人々は激怒した。ラジオ局の前に集結し、ウェルズを出せ、ウェルズを殺せ、ミンチにしろとわめき始めた。警察が一足早く彼らを保護したので事なきを得たが、集団ヒステリーという巨大な事件となった。
この件以来彼はハリウッドの進出するきっかけをつかむ。彼のこのイタズラ好きが後に市民ケーンという映画を作り、メディア王の逆鱗に触れ、ハリウッドから干されてしまうのだが、それはまた別のお話である。
