アメリカでは、Preventitive Care=健康予防対策が盛んである。
医療保険が高く、病院費が莫大にかかるので、「病気になってお金がかからないように(患者だけでなく国側にも)、日ごろから気を付けておきましょう」、という姿勢が強いのだろう。
だから、こうしたPreventitive Careは無料である。
これまでも、毎年の健康診断(血液検査、尿検査)、子宮がん検査が無料だったが、40歳になって乳がん検診も毎年、近年は皮膚がん検診も毎年行うようになってきた。45歳になった今年は、それに大腸検査が追加された。
最近は、食生活からか大腸がんが40歳を過ぎると増えてきていて、これまでは50歳からだった大腸がん検査が、最近45歳に引き下げられたのだそうだ。
健康診断に行った際にタイ人の女医さんから勧められて、インド人の先生のところで予約を取ることになった。
2月に先生に初めて会うため、病院を訪れた。これも無料なのかと思ったら、先生に会うのにはお金がかかるらしく(大腸検査自体だけが無料)、$75を支払って先生にお会いした。いくつか健康に関する質問をされて、10分ほどで先生との面談は終わった。
「帰りに予約を取って帰ってください」
とのことで、早速大腸検査予約受付専門の女性のところで予約を取った。
「空いているのは最短で5月22日です」と言われた。3か月待ちか~。
仕方がない。しないよりはましだから、5月22日に予約を入れて、細かい指示を受けた。
7日前から痛み止め等の薬は飲んではいけない。
3日前からナッツ、種、コーンなど消化の悪いものはたべてはいけない。
1日前(前日)になったら、クリアダイエットをしなくてはいけない。
クリアダイエットで食べてもいいものは、「透明な飲み物のみ」。
1日前の夕方5時と夜の9時にマグネシウムを飲むこと。
当日は朝7時に病院へ。
といった指示を受けて、マグネシウムセットを薬局でもらって帰った。
そして迎えた5月。
そろそろだな~、でも忘れそうだな~、と思い、カレンダーに7日前に食べてはいけないもの、3日前に食べてはいけないもの、1日前にはクリアダイエットをすること、などを書き留めておいた。
前々日には、前日に備えて大量にチキンスープを作っておいた。チキンスープのクリアなブロス(透明なスープ)は飲んでもいい。
そして迎えた前日。
朝からクリアダイエットなので、朝のコーヒーはブラックで。乳製品を取ってはいけないようだ。紅茶もブラックならOKとのことだったが、やはりコーヒーが飲みたい。お砂糖がOKだから、ミルクの代わりにお砂糖をいれて飲んだ。
おなかがすいてきたので、チキンスープを大量に温めて2杯飲んだ。
ジンジャエール、ゲータレード(日本のポカリみたいな飲み物)、スプライト、リンゴジュース、イタリアンアイス(白いシャーベットはOKなのでレモン味)、という食べても良いもの=砂糖、を一日取り続けた。
ヨム・キップ―ルなど、ユダヤ教の断食の日は、一日中一切の飲み食べが禁止だが、結構乗り切れる。一切禁止だから、腹がくくれているのだろう。でも、今回のように「飲み物だけはOK」など、少しの許容があると、逆に食欲が増して難しい。
そして迎えた夕方5時。いよいよマグネシウムのじかんである。
主人から、「これを飲んだら、もう君はずっとトイレにこもるから、今夜はこれで君を見ることはないだろう」と言われた。
そもそも、これがまぁまずいことまずいこと!
この1本のボトルを、ついてきた500mlの容器にいれて、水で500mlまで薄めて、一気に飲む。なんとも言えない、苦いチェリー味と、あまりに大量の水に、吐きそうになった。
さらに、この500mlを飲んだあと、あとさらに一リットルの水を1時間以内に飲まなくてはいけない。
普段全く水を飲まない私にとって、まぁこれが過酷だった。こんなに水を飲まなくてはいけないなんて。
そしてその後、主人の言う通りで、3時間半、トイレにこもりきり。。。(笑) 波が収まる間にシャワーを最速で浴びたが。。。無駄?
あっという間に9時がきて、また1.5リットルの水と、このまずいマグネシウムを飲んだ。
そして、またも3時間半、トイレにこもりきり。。。気づいたらもう夜中であった。
げっそり。こりゃいいダイエットになるな、と思いながら、眠りについた。
翌日は6時に起きて、6:30に家を出た。
病院について、いろいろな書類にサイン。そのひとつに、「死んでも文句は言いません」というものがあった。
そうか。死ぬ可能性もあるのか。
主人は、「この検査は、たぶん全米で毎日5万回くらいやられている検査だから、死ぬなんてもってのほかだよ」
と言っていたが、限りなくゼロに近い可能性かもしれないけれど、ゼロではない。
そのとき、ふと本気で「このまま死んだらどうなるんだろう?」
と、初めて「死」というものに恐怖を覚えた。
97歳になるおじいちゃんが、毎晩眠るのが怖いと言ってた。次の日に目覚めないかもしれないから。
ちゃんと遺書はもう用意してあるけど、最近更新してなかったな、とか思いながら書類にサインをした。
尿を取って、ガウンに着替えて、看護師さんが血圧と酸素量を測ってくれた。
それから点滴を入れ始めて(脱水しないように)、検査室へベッドに寝たまま移動した。
酸素マスクをして、左側を下に横になるように指示された。
麻酔科医の女医さんが入ってきて、「今から点滴に麻酔をいれていきます、ぐっすり寝てくださいね」と言った。
酸素の呼吸のあたりに強い刺激のようなものを感じたと思ったら。
目が覚めた。
リカバリールームにいた。
無事に検査が終わっていた。
まだボーッとしていたが、「もう終わったんだ」とびっくり。
看護師さんがやってきて、「気分はどう? 痛みはどこかにない? リンゴジュースとクラッカーを持ってくるわね」と聞かれた。
「気分は大丈夫です。ありがとうございます」
と何とか答えてぼーっとしていると、インド人の先生がやってきて、
「はーい。小さなポリープがあったけど、取ったから大丈夫。ほかは何の問題もないわ」
と言って、腸内の写真が印刷されたレポートをくれた。
よかった。無事に終わったし、死ななかった。
しばらくしてから着替えて、看護師さんが受付まで同行してくれた。
外に主人が車で待っていてくれて、車に乗り込んだ。
「どうだった? コーヒー飲みたいなら買おうか?」
と聞かれて、まだぼーっとしていたが、
ただただ、また主人と会えた。元気に子供に会える、ということだけに幸せをかみしめていた。
スティーブ・ジョブズが「毎朝、今日が最後の日だとしたら?と考えて過ごす」と言っていたが、改めてその言葉の重みをかみしめた大腸検査だった。
家に帰って、ドライブも散歩もダメ(麻酔がまだ効いているから)とのことで、本当にぼーっとしていたら、あっという間に子供たちが学校から帰ってきた。
「ママ! 大丈夫だった? どうだった?」
とルシュキちゃんが一目散に走ってきて聞いてくれた。
「ママ~」
と、クアちゃんがふんわりとギュっとしてくれた。
Baruch Hashem.