シアトルにいる友達がちょうどビジネスでニューヨークに来ているといい、安息日は家に泊まっていった。

彼の家族とはもう数十年に渡る友達で、本当にお世話になっているが、彼らがシアトルに引っ越してからは、めっきり会えないでいた。

彼は、チョレントが大好きである。

チョレントとは、ユダヤ人のシチューであり、まさに「おふくろの味」とは、このチョレントを指すのではないかと思う。日本人のカレーのような感覚だろうか。

歴史は長く、火や電気が使えない安息日にも温かい料理が食べられるように、チョレントは安息日の始まる前から煮込み始め、安息日が終わるまでずっと煮込み続ける。

巷に出回っているスロークッカーは、何を隠そう、おばあちゃんが作っていたチョレントの話を聞いたユダヤ人の孫が発明したものである。

ウィキペディアにも書いてある。

チョレント様々なのだ。

チョレントの作り方は至って簡単で、玉ねぎを超ざっくり大きめに切り、じゃがいもも大きめに切り、牛肉の角切りをいれて(ね?ここまで、カレーみたいでしょ?)、そこへ大麦と豆類をいれる。

水の中に、オニオンスープミックス、コンソメ、塩、パプリカをいれて溶き、それを材料を入れた鍋いっぱいにいれる。

スロークッカーを低温に設定して、夜通し煮込ませれば、

次の日の朝にはこのチョレントの美味しい匂いが、家中に広がっている。

煮込む前の仕込みが終わったチョレント。

チョレントは、安息日の朝の香りである。

昔通っていたシナゴーグでも、朝のお祈りのあとにチョレントが振る舞われていた。そのときは、お祈りのあいだ中、このチョレントのいい香りが漂ってくる。

冬の寒い日は、お祈りが終わったあとに、大きな鍋いっぱいに作られたチョレントを、シナゴーグに来ているみんなで食べるのが、ひときわ美味しい。じゃがいもはホクホク。牛肉はトロトロ。

卵をまるごといれて煮卵にしたり、キシュカという小麦粉と肉の脂を固めたソーセージのようなもの(私は大嫌いだが、主人と主人の家族は大好き)をいれたりと、いろんなバリエーションがある。

一度、シナゴーグで「チョレント大会」というものを開催し、5名くらいがシナゴーグでそれぞれのチョレントを作り、みんなで食べ比べて優勝チョレントを選ぶ、ということをしたこともある。

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私が改宗の勉強を始めてしばらくした頃、チョレントを作ってみようと思い、ユダヤ系スーパーマーケットで、チョレントミックス、という豆の混ぜ合わせを購入した。


私がレジへ持っていくと、超正統派ユダヤ人のおっちゃんが、お会計をしながらメガネを下げて私を見つめ、

「これが何か知っているのかね?」

と聞いてきた。

「もちろん知ってるよ。私はバビー(イェディッシュ語でおばあちゃんの意味)が作っていたようにチョレントを作るからね」

と、冗談を交えて返答すると、

大きく目を見開いて、あんぐりと口を開けて、言葉を失っていた。

私はそんな彼からにっこり笑って袋を受け取って、「よい安息日をね!」と言って店をあとにした。

この話は、今でもラビとラビツィンの大好きな逸話のひとつである。
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話を戻そう。

彼がチョレント好きなので、随分と久しぶりにチョレントを作った。

それ以外にも、彼が好きなものをいろいろと用意したが、

彼は私のチョレントを食べて、

「これこそが、チョレントの中のチョレントだ!」

と言ってくれた。

「ほら、バビーからもらったレシピだから」

と返答すると、彼も笑っていた。(もちろん、彼も先述の逸話を知っている)

安息日が終わったのが夕方の7時ちょっと過ぎだったが、小腹が空いたので、私も、まだグツグツとして残っていたチョレントを久しぶりに食べた。

うーーーん。美味しい。ほんとに美味しくできた!

自分でもびっくりするほどの美味しさであった。(笑)

久しぶりだが、やはり「バビー譲り」の腕はなまっていなかった。(笑)