1983年12月のある日


突然


小さいころから

大好きな

初恋の

片思いの

憧れの

お兄ちゃんが

うちに訪ねてきた



びっくり…

!!!



なんの前ぶれもなく

連絡もなく



いきなり、突然

目の前に現れた



その時は、うちには父と私の2人だった


あの頃、父は単身赴任で大阪にいて

だいたい毎週末帰ってきていたから

そして、確かまだ、ワイシャツ姿だったから、帰ってきたばかり?

となると、多分

金曜日の夜だったはず


いや、あの頃はまだ

週休二日ではなかったかな

とすると、土曜日の夜?



記憶は定かではない


こんな衝撃的な日なのに

記録もない



とにかく

幻ではなく


大好きな人が目の前にいる!



お兄ちゃんいわく

思い立って

東京にいる友人に会いに来たから

よってみた、とのことだった



お兄ちゃんの母親と私の母親は

女学校時代の親友で

そんな縁で

家族同士親戚のような付きあいをしていた



父も喜んで

よく来たね、と

むかえて


ひとしきり、いろいろ話してたなぁ


私は、そばで

聞いていただけ



とにかく

とにかく

この好きな気持ちは

ひた隠しに隠していたから


家族ぐるみの付き合いだから

よけいに

ばれてはいけない

絶対、いけない!


そぶりもみせてはいけない!


そんなの

バレたら、恥ずかしくて

生きていけないーーー


家族ぐるみで親しいのに、

そんなの、ばれたら

気まずくなるじゃない!

顔合わせられなくなる!

私だけ、どうしていいか分からなくなるじゃない


と、

気づかれるのは

私の中で絶対絶対NGだった


本当

恥ずかしいし、


それより、まず

お兄ちゃんは私のことなんて

眼中にないもん、

なんとも思ってないもん、と決めつけていた

わかっていた



自信のなさが

へんな負けず嫌い

へんなプライドの高さ

をつくっていく


傷つかないように

必死にバリアをはって


自分の気持ちをぎゅーっと

奥底におしこめて


感情の動きが不自然になっていく



うれしいのに、


表現できない



家族ぐるみの付き合いだから、

夏休みなんか、母親の実家に遊びにいくと

必ずみんなで会ってたし


あちこち行くのに

車で送ってもらったり、


おじちゃんの車には大人が

お兄ちゃんの車には、私たち子どもが


そんなこともたびたびあった


けど

私はいつも不自然に

感情を押さえた子



お兄ちゃんと話したことがない


記憶がない



長い付き合いなのに

一度も2人で

話したことがない



でも、幼なじみみたいなものなんだから

ほんとうなら

もっと親しく楽しい思い出があってもいいのに 


私は

無邪気なタイプじゃなかったから



かわいく

お兄ちゃん!とまとわりついて


お兄ちゃんのお嫁さんになる

くらいの

ことが言える


マンガみたいな

シチュエーションに憧れたりもした




もう意識しすぎて何もできず



今で言う陰キャ?


そんなふうにうつっていたかな





そんな接点のないこれまでの思い出



その日突然来て、父と話して

そろそろ友達に会いに行くので

失礼します、と

なったとき


父が、

車で送っていってあげなさい

と言った



私が運転して

お兄ちゃんを送って行くことになった



これまでの懐かしい夏休み

何回か、お兄ちゃんの車に乗ったことはあるけど


今日はお兄ちゃんを乗せて

私が運転する!



それも、2人きり!!


そんな日がくるなんて!!!



目白から新宿の少し手前まで

明治通りを

私の運転で

初めて2人でドライブ



何か、話しはした、と思う


何か、お兄ちゃんが話してくれていた

気はする


でも、何も覚えていない


すごく

ドキドキしたとかでもなく


なんか、たんたんと

運転しておくって行った気がする



運転するから、ドキドキしたらあぶないから、私得意の感情まるおさえ

だったのかもしれない


言ってみれば

初めてのデート!


あの頃らしく

ドライブデート!



そして、結局は

最初で最後



あれは天からの、神様からの、宇宙からの


最初で最後の

プレゼントだったのかな




そんな夢みたいな一瞬をすごした

1983年の年末


1984年新年あけてすぐ


お兄ちゃんは

かえらぬ人となった