夕方、役員車の運転手が合鍵を貸してくれとオフィスを訪ねてきた。
担当がスペアキーを持って駐車場まで同行したのも束の間、酷く慌てた様子で走り込んできた。
3台ある役員車にそれぞれ運転手が居るが、そのうちの1台で横になっている運転手が冷たくなっているという。
普段から何でもないことを騒ぐ“使えない奴”なので、また「大袈裟なことを…」と思いながら案内されると、確かに普段にこやかで人の良い運転手が高級車の運転席で横になっている。
「息してませんよぉ」と泣きそうな声。
手を触ると確かに冷たい。
鼻に掌を翳しても呼吸を感じない。
救急車は呼んだと言うので到着を待つ。
程なく、救命隊が到着。
一人に状況を説明している間、他の隊員が声を掛けて身体を揺する。
瞳孔反応を見て素早く運転席から引っ張り出すと、心マッサージ、ラクテック静注、挿菅、AEDと次々救命作業を施す。
ドクターカーが到着すると、交代しながらマッサージを続ける。
40分後、搬送車が来ると、ストレッチャーに乗せて運んで行った。
ストレッチャーに敷いたビニールシートが生還の可能性を否定する。
担当部長が一人付いて行ったが、安否はまだ不明である。
こんなことを言うと不謹慎かも知れないが、どの時点で宣告があるのか時間の問題と思えた。
つい、2時間前は役員を送って駐車場まで運転してきたらしいが…
たった2時間の間に何があったのか?
寝顔のような穏やかな顔からは伺い知れない。
どこが命の分かれ目なのだろう?

気が重い。