飛行機雲の視点 -2ページ目

飛行機雲の視点

その瞬間の一コマ、馳せる想い、写真やそれにみえるシーンなどを言葉に綴ってます。本や歌詞から引用させて頂く場合もあります(その際は引用元を記載します)

 少し暗めの間接照明に灯された、そのカウンターは7席ある。細長く作られた店の入り口から見て一番奥の席に彼は座っている。
 彼はグラスを持ち1口喉の奥へ流し込んだ。目の前は丁度カウンターの中が見えないような作りの席で、彼の目の前は黄色みがかった横のラインのおうとつのある塗り壁になっている。その壁の下30センチ位は縦の木目の木張りになっており、カウンターは良く磨かれたことにより"おうとつ"のある欅の一枚板になっている。
 店の客は、今は彼一人だ。カウンターの中では、ありきたりではあるが襟の糊がパリっと効いた白のシャツのボタンの一番上をひとつ開け、黒いベストを纏った背はあまり高くないが、どこか人の良さを感じさせる口髭を生やした50代であろう男性がグラスを磨いている。
 彼の前にはバーボンのグラスとナッツの入った皿、そして、吸いかけの煙草と灰皿がある。
 彼からみて左隣には背の高いタンブラーが汗をかいた状態で置いてある。グラスの中のアイスは溶け始め、グラスの1/3ほどが少しのアイスとアルコールの残りで満たされている。
 さっきまで彼の左隣には女性がいた。2年ぶりに再会した女性だ。彼は最近、旅行へ行った。そこで、とりあえずの土産物を買い込み、色々と配っていたときに、ふと彼女を思い出し連絡を取った。彼女の声は懐かしく、独特の癖のある話口調はすぐに彼を過去へと戻す事になった。簡単な挨拶と連絡を取った理由を話すと、彼女は嬉しいと話し、会う約束をした。
 約束をした日は金曜日だった。彼は次の日は仕事がオフであったが、彼女はどうしても残してある仕事があり、翌日も出勤しなくてはならないと言う。しかし、互いのスケジュールを確認しても、その日しか無いという結論に至りアポイントを取った。
 会うのは2年ぶりになる。2人にはすでに歩んできた互いに知らない時間が存在し、2人は競うようにお互いに報告しあった。
 当初のきっかけである土産を彼女に渡すと、いたく喜んでいた。何種類もある土産物の中で、彼は彼女の好むものをチョイスしていた。
 時間はあっという間に過ぎた。彼女は時計を気にし始めた。彼女が乗らないといけない最終のバスの時間は彼も知っているし、アポイントを取った時にも聞いている。彼も時計をさり気なく確認し、彼女に余裕を持たせられる時間に、自分のタイミングで席を立つよう一言伝えた。
 楽しかったし、土産を嬉しく思ったこと。そして何より、連絡をくれて会う事が出来たことが素晴らしかったと話し、彼女は席をたった。
 ドアの開閉により鳴るベルの音を聞いてから時間は経つが、彼はそのカウンターでウェイターにバーボンのおかわりを注文し、先程までの楽しい時間の余韻を楽しんでいた。そして、それを助長するかのように彼女と生活を共にしていたころを思い出させる残り香が彼の脳裏に微かに響きかけていた。