ハリウッドスターのパワーに危機?
スターのギャラと製作費の高騰を問題視
ハリウッドスターの価値は昔と比べて変わりつつあるのか。米脚本家組合のストライキ以降、スターのギャラは下がる一方で、これまでのように特別扱いを要求するスターは、お払い箱にされるケースもあるという。米バラエティ紙のアン・トンプソンはスターのギャラの移り変わりと映画業界の現状を以下のように指摘する。
ハリウッドが依然スターを必要としているのは言うまでもない。しかし、このほど米公開されたリドリー・スコット監督の『ワールド・オブ・ライズ』の興行成績を見ると、スターは条件付きで映画の効果を上げることができるということを思い知らされる気がする。つまり、スター自身に費用がかかり過ぎないことが大切なのだ。
もし、主演のラッセル・クロウとレオナルド・ディカプリオが通常のギャラの3分の1しか受け取っておらず、全体の製作費がその分、浮いていたとしたら、公開週末の1300万ドルという興行収入が、ひどい失敗だとみなされただろうか?
ハリウッドの問題は、高いギャラのスターの出演が決まった途端、スタジオがスタントやエフェクトのスケールをあげる傾向にあるということ。つまり、スターの出ているすべての作品を大作として製作しようとするということだ。
もちろん、スタジオはそういった賭けを楽しむ予算を持っている。しかし、世界経済と同じく映画業界もコントロールが難しくなってきている。膨らみすぎた風船から少し空気を抜き、もう少し手堅いサイズとスケールに戻すべきだろう。
そのためにはまず、ハリウッドは “2000万ドル・クラブ”を解散させることから始めるべきだ。
『ワールド・オブ・ライズ』を製作した米ワーナー・ブラザースは、ディカプリオとクロウに通常のギャラをそっくりそのまま支払ってはいない、と主張している。CIAの捜査官を描いたこのアクション映画は、イラクとヨルダンを舞台にしており、総製作費は1億ドル以上かかっている。全世界でのマーケティング費用を含まず、だ。ワーナーは、この映画への共同出資者が見つからなかった時点でもう1度考え直すべきだった。
今日のハリウッドの無茶な実態は、メジャースタジオが予算をかけ過ぎた作品を多く公開し過ぎる、ということだ。一方で米ウォルト・ディズニーは反対方向に向かっているのが目立つ。公開作品の数を縮小しているだけでなく、大作においてスタジオが費用をリクープするまではバックエンド・グロス・パーティシペーション(総収入から決まった割合をスターや製作関係者に分配していく契約)の発生を認めていない。
現在の天文学的なインフレーションは、基本的に神経質になったスタジオ幹部がスターたちにギャラを出しすぎたことに起因している。
1963年、超大作にして大失敗作の『クレオパトラ』を製作した米20世紀フォックスは、初めてエリザベス・テイラーに100万ドル超えのギャラを支払った。この映画は、インフレを計算すると現在でも映画史上最も製作費の高い作品となる。
さらにフォックスは、1988年にほとんど無名だったブルース・ウィリスに『ダイ・ハード』の出演料として500万ドルを払っている。
当時、MGMのチェアマンだったアラン・ラッドでさえ、ニューヨーク・タイムズ紙を通して「こんなことではビジネスがだめになる。業界のほかのすべての人と同じように私も非常に驚いた」と抗議している。
ウィリスがこれほどもらえるならとばかりに、他のスターたちも後に続いた。ダスティン・ホフマンは『トッツィー』で550万ドルのギャラを受け取った。そうして80年代から90年代にかけて、シルヴェスター・スタローンらに代表されるスターに対しギャラは上がり続けた。
2000万ドルのギャラに初めて到達したのは、96年『ケーブルガイ』のジム・キャリー。そこからトム・ハンクスやトム・クルーズたちが続く。95年にデミ・ムーアが『素顔のままで』で1250万ドルを受け取ったので、男優はもっともらうべきだということなのだろう。そしていよいよ、ユニバーサルが『ツインズ』に出演したアーノルド・シュワルツェネッガーとファースト・ダラー・グロス(総収入の1ドル目から決まった割合を配給する契約)を結んでから新たなパンドラの箱が開いた。
2000万ドルの出演料に20%のグロス・パーティシペーションという時期がしばらく続いた後、ビデオからの歳入が契約に盛り込まれ始め、いよいよハリソン・フォードやメル・ギブソンといった全世界的スターたちのギャラが2500万ドルの域に到達した。それに応じて、他の俳優や監督たちへのギャラも膨らんだ。カート・ラッセルのような中級クラスのスターでさえ、1500万ドルのギャラを受け取っていた。
さらに、続編への出演交渉ともなると、エージェントたちはもっと強気になっていく。スタジオはスターのギャラを上げる一方で、高いヘアメイク担当者をつけたり、子守係やプライベート・ジェットを用意したりという付加価値サービスでスターを甘やかし、彼らのわがままと怪物的言動を促すことになった。
そしてついに、シュワルツェネッガーの『ターミネーター3』でのギャラが3000万ドルとなり、彼は史上最高のギャラをもらう俳優として記録に残ったのだ。
今日では、スターへの過剰なギャラは修正方向にある。スタジオからのバックエンド・グロスも25%が上限となっている。バックエンドの発生もリクープ後であるし、たとえトップクラスの監督でもオーバーレイジに上限があるのだ。
『M:i:Ⅲ』でトム・クルーズが受け取った金額がスタジオの収入を上回ったとき、ヴァイアコムのサムナー・レッドストーンは怒りを露わにし、クルーズをパラマウントから追い出した。
マーヴェルは『アイアンマン』の続編でテレンス・ハワードが出した要求に屈することなく、代わりにドン・チードルを配役するという決断をとった。
ライオンズゲートのジョー・ドレイクもエージェントとの交渉中、スターに付加価値を提供するかと聞かれ、「スターと製作陣が、古い駆け引きの関係を持たずに、配給会社とともに興味を共有する機会があるはずだ」と答えたという。
スタジオも同様に、古いやり方を踏襲しなくてもいいのだ。
コストを下げることにより、彼らはもっと柔軟になり、より良質で興味深い、幅広いジャンルの作品を作ることができる。大人を劇場に呼び戻し、ニッチなマーケットに訴求力のある作品を提供できる。
皮肉なことに、キャリーはこのところすべての要求を却下されているが、彼の次回作がこの時代の精神を如実に表すものになりそうだ。米ワーナー・ブラザース製作の“Yes Man”というコメディで、キャリーはすべてのことに「イエス」と言う契約を交わす男を演じる。キャリーはメジャー製作のコメディ作品に出演するために通常のギャラより低い額に甘んじることに「イエス」と言った。ただし、映画がヒットすれば、彼はがっぽりもらえることになっているのだ。
出典:Variety Japan