本日の「変」は、以前アップしたら来訪してくださる方が
多かったのでまたまた小説を書いてみました。
お暇な方、もしよければどうぞ。
「Can you speak Japanese?」
ウィスコンシン州ミルウォーキー・・・
ミシガン湖にほど近い人口約62万人の都市。
今朝もこの街に住む全ての人へ平等に朝が訪れる。
「グッモーニン」
朝靄の中、朝の挨拶が交わされている・・・
ダウンタウンから少し離れた住宅街。
それぞれの家のポストにニュースペーパーを
配達する一人の少年。
彼の名はケビン。
地元のアメリカンフットボールチーム
「グリンベイ・パッカーズ」を熱烈に愛する
どこにでもいるような13歳の白人だ。
家庭の経済事情が苦しくて
新聞配達をしているが、別にひねくれても
人をそねんでもいない。
その証拠にほら、配る家、配る家から
「ケビン、グッモーニン!」
「ハーイ、ケビン」
配達する家の主達が笑顔で彼に声をかける。
そしてケビンも爽やかな笑顔で挨拶を返す。
「ハーイ、グッモーニング」
もともと明るい性格のケビンだったが、
ここ1週間は違う理由で機嫌が良かった。
そう、それはいつも新聞を配る「最後の家」の
住人が原因だった。
住宅街の一番奥の家に住む、「あの人」に会えるから。
ケビンはそれを思うと笑顔で顔がくしゃくしゃになった。
その家の「あの人」とは女性だった。
彼女の名はサマンサ。26歳の白人女性だ。
彼女は・・・外交官をしていた両親の影響で、
幼少の頃に世界のあちこちで暮らしていたのだが、
両親とも早くに病気で亡くなり、
ここ1週間前から生まれ故郷の
ミルウォーキーで一人で暮らしている。
そう、ケビンはサマンサに恋をしていたのだった。
少し年の差はあるけれど、思春期の彼を悩ますほど
サマンサは若々しくそして美しかった。
叶う恋ではないとケビンもわかってはいた。
でも会うとサマンサの美しさに翻弄される。
大人への階段を駆け上がる途中の彼だからこそ
止めることの出来ない気持ちなのかもしれなかった。
さぁ、ハリーの家も配り終えた。
あとは、サマンサの家を残すのみだ。
胸が高鳴る。
足が早まる。
新聞を配ることよりも、サマンサに会うことの方が
優先されている自分にケビンは苦笑いした。
なぜなら、この7日間、
ケビンは毎朝サマンサと会っていた。
そう、サマンサがここに越してきて、新聞配達が
始まった日から毎朝だ。
え、どうしてって?
それは、サマンサがケビンに始めて会った朝のことだ。
久しぶりにミルウォーキーに帰ってきた彼女は
もう土地勘がすっかり無くなり、
銀行の場所までわからなくなっていた。
特に困ったわけでもなかったが
運良く新聞を配達するケビンに出くわした。
そこでケビンに銀行の場所を聞いてみたら
やはり配達員の職業柄すぐに答えられた。
それをありがたく思ったサマンサが
見た所まだ学生のケビンに
お礼の代わりにと、毎朝「外国語」を少しずつ
教えてあげるということになったからなのだった。
勉強はあまり好きではなかったが
サマンサの美しさに一目惚れしたケビンは
「ぜひ」と答えた。
それ以来、毎朝ほんの少しずつ
外国の単語を教わったりしていた。
その外国とは・・・「Japan」だった。
アメリカの都市の中でも、とりわけ日本人が少ないと
されるミルウォーキー。
そのせいでもないのだが、
ケビンも全然日本語は知らなかった。
はっきり言って彼は、
教えてもらうのは何語でも良かったのだが
彼女に熱をあげているので、しっかり覚えなきゃと
勉強にも熱が入り始めていた。
一方サマンサはというと・・・
9歳の時、2ヶ月だけ滞在した日本に
最近ものすごく傾倒していた。
親子水入らずで過ごした日本・・・神戸の記憶。
アメリカンスクールに親の仕事の都合で
2ヶ月だけ編入される形となったサマンサは
仲良くなると後で悲しいからと
友達を作らないことを心に決めていた。
普段、多忙な父がこの2ヶ月、日本での滞在の時にだけ
家族と過ごす時間が長かった。
家族と過ごす時間が長かったため、学校で友達を
作らないことは寂しかったが耐えられた。
そのかわり彼女は、彼女の住む家の周りで遊ぶ
「日本人の子供達」と仲良くなった。
最初は異国の子達との間にあった妙な緊張感も
そこは子供ならではの人なつっこさで
すぐに解消され、言葉は通じないけれど
全く問題なく遊び始めた。
そしてホントにたくさん遊んだ。
公園で、路地で・・・
日本の遊び中心にたくさん遊んだ。
「言葉」も少しずつだが覚えられた。
彼らに教えられ、少しなら会話もできるようになった。
そして2ヶ月。
去るときが悲しいからと学校で友達を作らないと
決めていたサマンサではあったが
まさか日本の友達とサヨナラすることが辛く悲しい
ことになるとは予想もしていなかった。
何も告げず、日本を去った。
泣きながら日本を去った。
とても悲しい記憶・・・
そして親と過ごしたやさしい記憶・・・
そんな複雑なメモリーが、
最近サマンサの心に「また日本に行ってみたい」という気持ちを
芽生えさせていたのだった。
そう、サマンサは
ケビンに日本語を教えると言うより
実は自らの記憶をなぞり、懐かしみ、
そして日本へ行きたいという自分の気持ちを
確かめるように楽しんでいたのだった。
・・・・ケビンはサマンサの家のポストに
ニュースペーパーを入れた。
サマンサはもう玄関から外に出て
ケビンを待ちかまえていた。
「ハーイ、ケビン」
「ハ、ハイ、サム」
挨拶を交わしただけで胸が爆発しそうだ。
「ナイスモーニング」
「ヤー」
サマンサが手になんか持っている。
多分、それが今日教えてもらう日本語の単語だ。
ケビンはそれがわかっていた。
「ケビン、今日の日本語はこれよ」
サマンサは手に「太いウインナー」を持っていた。
「オ、オーケイ、サム」
よく聞いてなきゃ・・・
ケビンは、緊張していた。
「いい、日本ではね、ウインナーのことを
・・・・『チンポー』と言うの」
「ティ、ティンポォウ?」
「ノンノンノンノン!違うわ。『チンポー』よ!
そんな発音じゃ、私といっしょに日本に行ったら
私が笑われるじゃない。さ、もう一度言ってみて」
微笑みながらサマンサが言った。
「チ、チンポゥ」
「グゥッド!ま、そんなところね。明日の朝まで
チンポーと何度も言って練習してみて」
そう言うと、手に持っていたウインナーを
ケビンに渡し「ご苦労様。食べて」と言って
家に戻っていった・・・
彼女は素敵だった。
しばらくサマンサの家の前でケビンは立ちつくしたが
すぐ我に返った。
「私といっしょに日本に行ったら・・・」
そのフレーズが超うれしかった。
よし!ボクも日本語を覚えるぞ!
サマンサに昨日教えてもらったのは何だったけ?
あ、そうだ。
確か「たわし」は『インモー』だったな!
「ティンポゥ!インモゥ!」
ケビンはそう大声で叫ぶとウインナーをかじりながら
大ジャンプして、笑顔一杯でストリートを駆けだした。
ケビンの夢はサマンサと日本へ行くことだった・・・。
完