『古井戸が自らの手で、アレンジ・プロデュースし、
混沌としたニューミュージック界に波紋を投じた衝撃のニューアルバム!』
今回から新たにスタートした「あの世へ持って行くアルバム」の第1回は
古井戸の「酔醒」です。この書庫で紹介するアルバムの順序は、
好きな順、とかではなく、あくまでもランダムですので...。
古井戸は「さなえちゃん」とか「ポスターカラー」などのプチ・ヒットで、
仲井戸麗市と加奈崎芳太郎のデュオだということくらいは知っていました。
NHKの「ヤング101」でワカとヒロが「ポスカラ」を唄ってたのを覚えています。
なんとなく雰囲気や出で立ちが古井戸と似てたようでした。
さて、この「酔醒」との出逢いは、今から遡ること35年ほど前のことです。
大学生活を始めるべく上京したワタシは、
ちょうどその年に大学を卒業した従兄弟が住んでいた下宿に引き続き世話になることになりました。
学生ばかりが入居する5室の下宿で、卒業した従兄弟は一番大きな部屋にいたそうです。
その部屋が空いたので、年功序列でみんな一つずつ大きな部屋へ移動し、
一番小さな部屋が新入生にあてがわれる、というしきたりだったようです。
従って、私は一番小さな4畳半(中空に半畳分の押入れがあるため、床面積は4畳半だけど
実質有効面積は4畳)を月4000円で借りることになりました。
(今思えば、一番小さな部屋で一番大きなカオをしてたような...笑)
もちろん風呂なし、トイレ共同、朝はココナッツサブレ3枚とインスタントコーヒー、
昼は学食の "Bランチ" 150円、夜は定食屋で定食を食べる耐乏生活の始まりです。
この定食屋、たしか名前は「嵯峨野」とか言ったと思いますが、
一番人気は「煮カツ定食」で¥280、これにサラダもしくは冷奴をつけても
300円ちょっとで満腹。
さて、そんな大学生活も無事1年を経過し、2年生になった時に、
卒業生が住んでた一番大きな部屋が空いたのですが、先輩方は今の部屋で充分、
ということで、ワタシが2年生にして一番大きな部屋に入ることになりました。
(6畳と3畳ほどの板間が付いて月8000円です)
その年の新入生は福岡出身の財津君、これがまた狭い4畳半に家からステレオなどを
持ちこみ、陽水やこの古井戸などを聴いてたのです。
彼の部屋から聴こえてきたこの「酔醒」、最初は誰のレコードかわかりませんでした。
ピアノ・トリオを従えたジャジー&ブルージーな歌、気になって思わず財津君に
問い詰めました。すると彼はジャケットを見せてくれたのです。
それがこの「酔醒」との出逢いでした。
後日、帰省した時に地元のレコード屋さんで買い求め、カセットにダビングして
持ち返ったのです。
さてソニーからのアルバム「酔醒」は過去のエレック・レーベルのフォーク路線から
大きく進路変更をした「オトナのサウンド」といったイメージでした。
何て言ったって、バックは山本剛(ピアノ)、福井五十雄(ベース)、山木秀夫(ドラムス)の
トリオが担当し、今までのフォーク・サウンドからは一線を画したジャジーな音でした。
A-1の「飲んだくれジョニイ」からして、もうブルーズ!
間奏のピアノ・ソロといい、チャボの珍しいガット・ギターもブルージー&ジャジー!
もちろん「おまえと俺」や「ステーションホテル」「遥かなる河」「黄昏マリー」
「人生に幸多かれ」のようなしっとり唄いあげた加奈崎節も健在なり。
「おまえと俺」のエンディングなんかはピアノとギターの絡みが素晴らしいですよ。
A-4「スーパードライヴァー5月4日」、クルマのエンジン音が登場しますが、
これはチャボの日産チェリーF-兇裡咤鼎如
歌詞に登場する「レギュラー満タン ¥3500 上様できっといとくれ」、
この「酔醒」がレコーディングされた1975年あたりは折からのオイルショックで
ガソリン価格も100円前後まで上がったのではなかったでしょうか?
チェリーの40リッター・タンク(多分)で、満タンで約35リッター入ったとして
だいたい3500円ほどになるのかな?
この「スーパードライバー」を始め、「Whisky Romance」「雨に唄えば」
「私の風来坊」「懐かしくない人」など、今までになくチャボの露出度が多いのも
本アルバムの特徴です。ここまでチャボが唄いまくり弾きまくったのも初めてでしょう。
アルバム全体に、バックのピアノ・トリオがいい味出してるし、
また隠し味のブルーズハープ(奥津光洋、松田幸一)もニクイ演出です。
とにかく、古井戸の作品の中ではダントツで好きなアルバムです。
財津君、どうしてるかなぁ...。足デカかったなぁ。
さて、次回の「あの世へ持って行くアルバム」は
マハヴィシュヌ・オーケストラの「火の鳥」を予定しています。