イメージ 1

イメージ 2

JEAN-MARC LUISADA & JEANNE MOREAU 「サティとプーランク」     1994
新井満 「ヴェクサシオン」     1987

 CDのほうはフランスのピアニスト、ジャンマーク・ルイサダが
サティの小品集とプーランクの「象のババール」を演奏したもので、
それだけではそれほど珍しくもないのですが、ご存知の通り、
サティの小品には、サティ本人のコメントが付いており、それを
フランスの大女優ジャンヌ・モローが囁くように朗読しているのです。
例えば「グノシエンス第3番」では
  注意深くあなた自身へ助言して
  先見の明を身につけて
  一瞬の間、ひとりで
  凹を生じるようなやり方で
  ひどくまごついて
  それをもっと遠くにまで運ぶ
  頭を開いて
  その音を埋めて
といった具合にジャンヌ・モローが囁いています。(もちろん仏語で)

 そしてプーランクの「象のババール」ではマルサダのピアノをバックに
ジャンヌ・モローが物語を朗読します。もちろん私は仏語は理解できませんが、
ピアノの音にのっかった仏語の響きを、訳詞を読みながら楽しんでます。(笑)

 一方、大ヒットした「千の風になって」の作曲と訳詞をされた新井満氏の
野間文芸新人賞受賞作「ヴェクサシオン」、これもご存知サティの小品の
タイトルです。内容は、CM演出家と耳の不自由な女性(絵コンテを担当)
の出会いと、それにからむサティの「ヴェクサシオン」の「引き算の美学」
を描いたものです。

 サティといえば、「ヴェクサシオン」や、それ以上に「ジムノペディ」
などが好きなのですが、たぶんサティを扱うのは初めてのルイサダが
ジャンヌ・モローのナレーションを得て、なおかつサティとプーランク
というまったく異種の作品を「ヴェクサシオン」でつないでしまう、
という画期的なアルバムでした。

 新井満氏も作品の中で、ニュー・ヨークでジョン・ケージが「ヴェクサシオン」
の完全演奏に挑戦したことについて触れられています。ご存知「ヴェクサシオン」
には「連続して840回繰り返すこと」とサティの指示がありますが、
それに関する記述を抜粋させてもらいます。

 夜明け前、20時間近い演奏がようやく終わった。ホール内は深い疲労感に
包まれていたが、それでも聴衆は安堵の溜息をつきながら熱狂的な拍手を送った。
その時、客の男の一人がやおら立ち上がり、
「ブラボー、アンコール!」
と叫んだが、聴衆の誰も支持しなかったという。
 恐らくその男客にしてもアンコールの不支持は歓迎であったろう。
私たちはよく知っている。コンサートホールの外へ一歩踏み出せば、
もっと退屈な日常生活という "ヴェクサシオン" が間断なく鳴りつづけている
ということを。しかもこちらの方の "ヴェクサシオン" は840回目が来ても
終わってはくれないのである...。