(前回より)

前回は、Earth Music & Ecology(以下、アース)を展開するクロスカンパニー社が、主力ブランドのアース一本に収益の柱を依存しないよう立ち上げたブランドが、価格、テイストの両面でアースと重複した存在になってしまっている(ブランドポートフォリオが機能していない)、という現象と想定される要因について「green parks topic」という具体的なブランドを題材にして述べました。

ではどうすればよいか?
という対応策が最終回のテーマになるのですが、聞くと当たり前すぎてがっかりするかも知れません。

その解決策の一つは「人、組織を分ける」ことです。

外部のクリエイターを招いて、彼、彼女の世界観で、これまでのクロスカンパニー社のイメージとは異なる、全く新しいブランドを立ち上げる、

という形で人材は外部から調達するも、基本的にゼロから自社で立ち上げるパターン。

または、すでにある程度育っている外部のブランドを買収する、という形で「時間を買う」パターン、などいくつかの打ち手があります。
この際重要なことは、とにかく「自社内の人、特に主力ブランド(この場合、アース)の成長に携わってきた人には触れさせない」こと。
そして、既存のブランドを運営する組織とは全く別動帯の組織を立ち上げ、社長ないしは新規事業担当役員の直下で事業を運営する体制を構築することです。

実はクロスカンパニー社はすでに昨年「時間を買う」選択肢をとっています。

それが、米国の高級ブランド「Thom Browne(トム・ブラウン)」との資本・業務提携による「Thom Browne」の日本およびアジア展開。(詳しくはNews参照)

「何だ、クロスカンパニーはちゃんと手を打っていて大丈夫なんじゃないか」
と思われるかもしれませんが、そう簡単な話ではありません。

なぜならば、「Thom Browne(トム・ブラウン)」はこれまでクロスカンパニー社が、もっといえば日本の多くのブランドが行ってきた事業展開と全く異なり、「その2」のブログで述べた「高いブランド力をテコにした事業展開を行っているブランド」。つまり、事業の運営方法や「経営のツボ」が全く異なるのです。

この場合ポイントになってくるのは、その会社に、過去やってきた事業と異なる性質の事業を推進していけるだけの経営スキル、経験を持った質の高い“経営者人材“が存在するかどうか。

ところが、ここでワンマン経営を行ってきた企業の弱点が露呈されます。
そもそも、そんな優秀な経営者人材が育っていない、または育てようともしていないのです。

すると、当然の帰結として、オーナー社長自身が新規事業の陣頭指揮を執ることに。。
こうして今度は既存の主力ブランドや新規ブランドに目が行き渡らなくなり、赤字の事業が出始めたり、問題が続出し始め、徐々に「経営のバランス」を失っていくのです。
こうなると、ちょっとやそっとでは歯止めがきかなくなります。

怖いのは、一気に売上が落ちることは稀で、数年かけて徐々に顧客離れが起こり、売上が漸減していくことです。
一気に下がれば、社内に危機感が生まれ「すぐに何とかしなければ!」となるのですが、徐々に落ちていくため強烈な危機感が生まれにくいことも立て直しを難しくさせる要因の一つ。

幸い、クロスカンパニー社はアースの躍進の只中にあり、まだ今の段階であれば手を打てます。
私であれば、クロスカンパニー社がこれまで辿ってきた経緯を踏まえ、「Thom Browne(トム・ブラウン)」から手を引きます。
理想論では、いち早く“ブランド経営の分かる”経営者者人材を一本釣りし、「Thom Browne(トム・ブラウン)」の事業運営を任せる、といった選択肢も魅力的に映るのですが、やはり餅は餅屋。

全く異なる経営資源を求められる打ち手を選択するよりは、これまでの人的資産や運営ノウハウを“てこ”にして更なる成長を実現できる打ち手をとった方が成功確率は上がると断言できます。

散々好き勝手言ってきましたが(笑)、いずれの打ち手をとる場合にも、実は成功するかどうかの分かれ目は一つしかありません。
それは、既存の主力事業(アース)と異なる新規事業については、オーナー社長が口を挟まず、連れてきた(または選んだ)人材に裁量と権限を与えて(その代わり期限も区切る)任せることができるかどうか。。

これさえ根気強く継続して実行できれば、例え最初の取組みが失敗したとしても間違いなくクロスカンパニー社は数千億円規模のエクセレントカンパニーに脱皮するでしょう。

私個人としては、この“絵姿“が実現する日を楽しみに、今後もクロスカンパニー社を継続的に見ていきたいと思います。
ホント、がんばってほしい!