突然ですが「木型(ラスト)」という言葉をご存知でしょうか?
文字通り、木でつくられた”型”なのですが、足の形をしていて靴をつくる際その形を左右する型だと思ってください。

■テーブルの上に乗っている足の形をした物体が木型
$SHOE SHINE BLOG (山田政弘のブログ)

実はこの木型が一つのブランドに対する顧客のリピート率を左右する最大の要因なのです。
例えば、フェラガモ、クリスチャン・ルブタン、ジミー・チュウといった欧米の高級婦人靴がありますが、これらの靴を多く持っている人に買う理由を聞くと大体このような答えが返ってきます。
「本当に綺麗な形をしているし、何といっても履き心地が抜群」

一方で、これらの靴を買わない人にその理由を聞くと、「値段が高い」という理由を挙げる人もいれば「足に合わないから」と言う人もいます。

パンプスなどヒール(かかと)の高さのある女性靴ならではの現象です。
ある人にとって合うブランド(の靴)は合う、合わないブランドは合わない…
一見当たり前のように感じることかもしれませんが、こと日本のブランドに置き換えると、なぜか先ほどのように「このブランドだったら合う/合わない」という理由が出てきません。

これはなぜなのでしょう?
その答えが「木型(ラスト)」なのです。

「木型」は継続して使う(前シーズンに使った木型を次のシーズンでも使う)ことで、同じ履き心地を実現できるのですが、デザインを変えようと思うと、デザイナーはつい新しい木型をゼロからつくろうとしてしまいます。

すると当たり前ですが、前シーズンにつくった木型と形が変わってしまいます。
これを繰り返していると…
もうお分かりのように、前シーズンの木型でつくった靴と同じような履き心地は、二度と味わうことができなくなってしまうのです。

日本のメーカーはトレンド性を追い求めるあまり、上記のように毎シーズン(春夏と秋冬)デザイン変更とともに木型の刷新をしがち。
するとお客さん(女性顧客)にとっては、毎回自分の足に合うかどうか確かめないといけなくなります。しかも確かめた結果「合わない」ということが多くなり、結果としてそのブランドに対するロイヤルティ(忠誠心)が低くなってしまうという訳です。

これに対して欧米のラグジュアリーブランドの靴は木型をパターン化し、シーズンが変わっても前の木型をベースにうまく部分改良しながら新作をつくります。

すると、シーズンごとにデザインとしては異なる商品をつくってもある程度同じ履き心地を実現することができ、結果として前シーズンにそのブランドの靴を買った人が(もちろん、新シーズンのデザインを気に入れば)次のシーズンも同じブランドの靴を買っていく、というのが、日本の靴ブランドに比べて、欧米の靴ブランドに対する思い入れや支持率が高い理由なのです。

■木型(履き心地)を継続しながら新しいデザインを起こすため、設計はCADで行う
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■過去の木型のストック
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実は、この履き心地が毎回変わってしまうという問題を解消してリピート顧客を囲い込み、且つデザインの鮮度(トレンド)を保つ、という「二兎」を獲得することができる策があるのですが、それは繊研新聞に書いた原稿に譲ることにします。

このテーマは非常に奥が深いので、今後も何度か取り上げていきたいと思います。