靴の仕事でよく中国や東南アジア、イタリアのメーカー(工場)に行くことが多いのですが、それぞれの国の工場を見るとその国の産業における靴の位置づけとそもそもの「モノづくりに対する姿勢」の違いに気がつきます。

■中国の(靴の)組み立て工場
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中国は整然としてはいるのですが、工場の操業コストを下げるため徹底して削れるものを削ります。
例えば工場内の冷暖房。冬に上海、東莞に行った際にも、工場内は一切暖房がついていませんでした。
そんな中、ワーカーたち(中国人の若者)はめいめい防寒具をはおり、粛々と作業をしていきます。(我々日本人の訪問客はみなバックオフィスにあったストーブの前で身体を寄せ合っていました。笑)

また、美的こだわりというか、内装については全く無頓着です。
簡素というと聞こえは良いですが、操業のために必要な機械以外まさしく何もありません。

■イタリアの(靴の)組み立て工場、ヒールメーカー
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一方、イタリアでは、中国でつくられている靴と同価格帯のものをつくっている工場でも、ワーカーの作業環境を良好に保つために、最大限の努力を行っています。

冷暖房は当たり前なのですが、例えば靴を製造する際に使用する接着剤。
中国の工場では化学薬品の匂いが充満していて、思わず鼻をつまんでしまいそうになります。
ところが、イタリアの工場では(匂いは)一切しません。
工場長に聞くと「大型の排気装置を取り付けて、絶えず工場内を喚起していて、化学薬品の匂いがこもらないようにしている。ワーカーの環境は大切だからね」とのこと。

では、イタリアではコストを下げる努力はしていないのか、というとそうではありません。
彼らは「標準化」「自動化」することで、工程に関わる人数を減らし、人件費を下げているのです。(中国に比べて人件費が高いため、そこに手を打たなければならない、という背景からきている)

中国では大量に人員(ワーカー)を投入し、(一部機械を使いながら)手でつくるが、もともと人件費が安いということと、工場自体、作業環境自体にお金をかけずにコストを下げています。
(といっても、最近では上海地区始め人件費が高騰してきたので、コスト的に人海戦術が難しくなってきていますが)

一方イタリアでは、モノづくりの工程を「標準化」「自動化」することで、ワーカーの人数を減らしてコストを下げる一方、例えば革を靴の形に合わせて切る際にもコンピューターで操作するレーザーカッターを使い、誰が操作しても靴の仕様書(設計書)通りの形にほぼ一瞬でカットできるようにする、など、品質の水準を一定に保つことも同時に実現しているのです。

また、工場内は綺麗な内装(といってもお金をかけているわけではない)で、且つ室内も明るく保たれており、清潔さを保っていますし、ちょっとしたオブジェや洒落たポスターが飾ってあったりと、美的にも美しい環境をつくろうとしている姿勢が伝わってきます。

もちろん、単純に比較して優劣をつけるつもりはありませんが、こういった細部に対する姿勢、美的感覚の追求が、最後は「デザイン」や「商品の風合い」につながってくるのだなあ、と実感した次第です。

イタリアにおけるモノづくりのポイントが「標準化」「自動化」と聞いて「あれ?イタリアって職人の世界じゃないの?」と疑問を持たれた方もいらっしゃると思いますが、実は違います。もちろん、職人の技術レベルは世界でも最高峰に位置しますが、一部ラグジュアリーブランドの靴を除く大半の靴は、手作業でつくっているわけではないのです。そのあたりのポイントとよく日本で誤解されている点については後日触れられればと思います。

■「標準化」を実現するための機器(写真は靴の形を左右する「木型」に革をかぶせる前に、革自体を「木型」と同じ形で事前に熱することで、馴染みと風合い、仕上がりを良くするための機器)
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