またまた東野圭吾作品です。

 

待望の文庫化!とのことで、上下巻の長編です。

 

 

 

ちょうどこれを読む前に、同じく東野圭吾の「マスカレードナイト」を読んでいたので、

すごく華やかで鮮やかで展開の速い「マスカレードナイト」に対して、「白鳥とコウモリ」はすごく地味な感じがしましたが…笑

 

マスカレードナイトがエンタメ系だとしたら、「白鳥とコウモリ」は先日読んだ「虚ろな十字架」同様、考えさせられる系の一冊です!

どっちも好き!どっちも書ける東野さんってホントすごい。

 

​二〇一七年、東京竹芝で善良な弁護士、白石健介の遺体が発見された。
捜査線上に浮かんだ倉木達郎は、一九八四年に愛知で起きた金融業者殺害事件と繋がりがある人物だった。​
そんな中、突然倉木が二つの事件の犯人と自供。事件は解決したと思えたが。​
「あなたのお父さんは嘘をついています」。​
被害者の娘と加害者の息子は、互いの父の言動に違和感を抱く。​

 

犯罪被害者の家族、犯罪加害者の家族のどちらもの心情がとてもリアルに描かれていて、特に、加害者家族の動揺した対応など、読んでいてもどかしくなるほどだけれど、確かに実際突然そんな状況に置かれたらこういう対応になってしまうだろうな、ということも本当にリアリティ味あふれる。

 

検察、弁護士の立場だったり、警察の裏側?や、ネットやマスコミのこと。

もし自分が何か事件に巻き込まれたら、こんな風になるとすごくわかりやすく疑似体験できる。

 

特に今の時代、なにかあるとすぐに、本当かウソかわからない情報がSNSで拡散されてしまう。

発言したことと違うニュアンスで週刊紙に書かれて全国にばら撒かれる。

 

年始の地震の時もだったけれど、X(旧Twitter)でのデマ拡散が結構あったよね。

真偽を確かめずにリポストで拡散することも、良くないことだと思う。

それによって、拡散された側がどんな心境になるのか…想像できない人は読んでほしい。

 

本書の場合、犯罪加害者の家族として息子の勤務先や写真などが拡散されて、会社にまでクレームの電話が入る。

有名広告代理店、とあったので余計世間のやっかみからそういう電話が入るんだろうということも想像できる。

ほんと、なぜかネット民って電通とか大好きだからね。

 

最近俯瞰力がない人や想像力が欠如している人が増えている気がして、

いや、増えているわけじゃないのかもしれないけどネットの社会で顕著に目にするようになったっていうか。

ワイドショーネタだって、週刊紙ネタだって、視聴率が取れたり部数売れたら勝ちみたいな、真偽はどうでもいいっていう姿勢、やめてほしいとずっと思ってる。

誰かが傷つくようなことを推測で拡散して何が楽しいのか。

ご近所のうわさレベルで済んでいたことが、SNSを通すと全国規模・世界規模になることが分からないんだろうか。

そんなことも考えさせられました。

 

どの人物に肩入れして読むかによって、見え方が変わってくる本書。

どの登場人物も、自分なりの正義があって、それが世間の正義はと違うかもしれないけれど、それぞれ正義を信じている。

倉木は、自分が正義だと思っていたことが最終的に間違いだったのかもしれないとすべての罪をかぶるつもりだったけれど、倉木の思いを尊重した方が正解だったのか、正しい結論を出したのが正解だったのか、私には正直まだわからない。

 

いずれにしても、人には一人ひとりそれぞれの人生の背景があって、関係ない他人はネットやニュースでその一部だけを知ることはあっても全貌を知ることは不可能なのに、他人がちょっと聞きかじった事件について勝手に良し悪しを決めるのもおかしいだろ、ということも思ったりした。

 

うちの息子(小6)とかを見ていると、何かがあった時にやっぱり一方向からの物の見方しかできなくて、すぐ「これが悪い」と自分の直感で決めがちなんだけれど、

「これが悪い」と決めるにはもっと情報を集めないといけないよ。いろんな立場の人の気持ちを考えてから、よく考えて結論を出さないといけないよ。もしかしたら、「これが悪い」と思わせるように誘導されているかもしれない。何か大切なことが隠されている可能性だってあるかもしれない。まだあなたが気づかない込められた思いがあるかもしれない。

そういうところにまで気をまわしてから、発言できるようになってほしいと思っています。

いわゆる俯瞰力ってやつだけど。

ネット社会になって、うっかりすぐ拡散したり、自分の意見を書き込んだり、発信できてしまう時代だからこそなお。

 

娘の方は、タイプなのか女子だからか、周りがしっかり見える子で、人の気持ちを察するのが得意なのでゆくゆく俯瞰力は身についてくる気がするけれど。それでもやっぱり若いうちは経験値として足りないから、読書などで想像力を補ってほしいなと思います。

 

読書のすごいところって、やっぱり自分が直接体験できないことを疑似体験できることだなと。

 

東野圭吾さんご本人が「今後の目標はこの作品を超えることです」と書いているように、やっぱり傑作です。

どうぞまだの方は、お時間のあるときに。