プレミアム・モルツ、永ちゃん、そして最高の時間。
CafePRONTO。しかも限られた店舗でしか飲めないブロンズグラス入りのプレミアムモルツ。仕事帰りのちょい飲みにはぴったりのリーズナブルなこのカフェで、普通のグラス入りにほんの数十円を追加して飲めるPRONTOのプレミアムモルツが、この2~3年のちょっとした贅沢。マイブームだった。
35歳・独身・仕事あり。最近世間で言う「負け犬」だ。しかし、私は自分が負けているとは思っていない。好きな人のことで頭をいっぱいにできる"女の子"な時期はとうに過ぎ、「この人でいいか?」と思えるくらいの人と友達でもなく恋人でもない付き合いをして、何となく女を捨てずにいる自分に満足していたから。そして、少し年上や同世代の仲間とプレミアムなちょい飲みをして一日を終えるサラリーマンな生活が結構心地よかったから。
マイブーム。ブロンズのプレミアムモルツに遅れること数ヶ月、偶然聞いた「矢沢永吉」。"オヤジ"が注目されている最近、かつてより目や耳に飛び込んでくる機会が多かったせいだろうか。あるライブ映像をみたその時からすっかり虜になってしまった。元々のオヤジ好きも起因して。
「プレミアムモルツ」と「矢沢永吉」。今となっては"商品"と"顔"だが、このコラボレーションが私の人生の一角に最高の時間をもたらすことになろうとは・・・
永ちゃんファンでなければ知ることも、まして行くこともないであろう、しかし永ちゃんファンにはたまらないDIAMONDMOONという店が赤坂にある。ファンの多くは"大人"になってから既に長めの時間を過ごしている人達。それに合わせてか店はシックな佇まい。私のような若輩者が独り訪ねても微塵も心地悪さを感じさせない。しかし、薄暗く、深紅のソファーや絨毯の設えられた雰囲気には独りよりもふたりな気分が拭えない。
そんな店を知った頃、実はサラリーマンな私にも気になる人が存在していた。そのひとはまさに青春を永ちゃんで過ごした世代。CDを買った、ライブに行ったと報告をするうち自然と会話の機会が増え、気づけばいつも心のどこかに引っかかる存在になっていた。ある日、DIAMONDMOONの話をした。「是非一緒に。」と言ってくれた。そのひととは時々お酒を飲む仲だったので飲みの誘いに躊躇はなかった。そのひとが家に帰れば夫であり父であることを除いては。
そのひとの職場からDIAMONDMOONへは歩いても行ける。話をしてから実現までそう長い時間はかからな
かった。"共通の趣味"を楯に罪の意識も薄らいだ。そのひとが私とふたりで時を過ごすことをどう思っているのかはわからないまま。
「"とりあえずビール"というのはビールに失礼だ」というCMがかつてあったが、そのとおりだと思う。「好きなお酒は?」と聞かれて「ビールしかもプレミアム系」と答え続けてきた私は、どこに行ってもビールを飲み続ける。この日もビール。もちろん銘柄は「ザ・プレミアム・モルツ」。そのひとは「とりあえず派」だったかも知れない。とにかくビールを2杯オーダーした。そのひとは「うまい!」と言って1杯目を飲み干し、すぐ2杯目を口にした。ブロンズグラスではないけれど、大好きなプレミアムモルツ、大好きな永ちゃん、そして・・・
大好きなビールが緊張を解きほぐし、最高の時間をもたらしてくれた。今までなら少し口を滑らかにしてくれるこの飲み物の勢いを借りたところだが、今回は違う。この時間・この雰囲気・この感じ・・・一度だけで終わらせたくない。そのひとがこのこと、いや私をどう思っているのかは未だにわからない。・・・知りたくないのが本音だ。しかし、そのひとは言ってくれた「いい店だったね。また来る時は誘ってね。」。
その後店は改装休業。今月新装開店したが未だ行動は起こしていない。「ビールがおいしい季節ですね
。またいかがですが?」そろそろ声を掛けてみよう。あの言葉を、そしてあの時間がそのひとにとっても最高であったと信じて。
