気まぐれ小説 | じゃすとどぅーいっと!

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また来るぜよ



―――コン。コンコン。


それはとても控えめで、起きていたって気付くかどうかわからないくらいの物音だった。



夢から抜け出してきたばかりの私は、薄っすらと目を開けて窓を見た。

カーテンの隙間から見えた空は白み始めたばかりで、時計を見なくとも、まだ起きる時間じゃない事は認識できた。


聞こえた物音は、今はもう聞こえなくて。

もしかしたら夢での出来事だったんじゃないかと、また目を閉じようとした。


コンコン―――


今度ははっきりと聞こえて、聞き間違いじゃなかった事に気付く。


こんな時間に誰だろう・・・


寝起きの髪を軽く整えながら音のする方へと向かった。

ドアスコープをそっと覗くと、見知った姿が背を向けて帰ろうとしているところだった。


「・・・・・・辰馬?」


開けたドアの隙間から顔を覗かせると、モジャモジャ頭が振り返る。


「あ・・・起こしてしまったかのう?」


いつもなら、早朝だろうが夜中だろうが時間も気にせずチャイムを鳴らすのに、今日はそれをしなかった。

それどころか、振り向いた顔はちょっとばかり気まずそうで、何だか様子がおかしい。


「・・・うん、まぁ・・・そうなんだけど・・・どうかしたの・・・?」


「あー・・・・・・」


何かを考えているのか、遠くの空を見遣ったまま押し黙ってしまった。

私も何となく声がかけずらくて、しばらく沈黙が続いた。


けれど、このままでいるのも滑稽に思えて、とりあえず部屋へと招き入れようと口を開き掛けた時


「・・・ちっくとワシに付き合ってくれんかのう?」


申し訳なさそうな笑みを浮かべて、辰馬が言った。


断るつもりなんて最初からなかったけれど、いつもは大きく見えるその身体が頼りなさ気に見えて、気付けば手を取って答えていた。


「うん。私でいいなら、一緒に行くよ。」




30分だけ時間をもらって、急いで支度を済ませた。

私がバタバタと動き回るその傍で、辰馬はどこか遠くを見つめたまま口を開くことはなかった。


家を出てからも、いつもと違う状態は続いて。

てっきり船で移動するものだと思っていたのに、向かった先は近所の駅だった。


そこから始発の電車に乗り・・・今に至る。


かれこれ、もう三時間くらいは電車に乗っている気がする。

こんなに遠出するなら、船とか新幹線の方がよかったんじゃないかと思うけど、そんな事を言い出せる空気じゃなかった。


辰馬は、今にも泣き出しそうな顔をしているのだけれど、決して悲しい表情じゃなくて。

儚げで、寂しそうで、目を離すと消えてしまいそうに見えて、私は繋いだ手を緩められずにいた。


日が沈み始めた頃、ようやく着いたその場所は辰馬の生まれた地。

以前から来てみたかった場所ではあったけれど、まさかこんな形で来る事になるとは思ってもみなかった。


駅を降りてからの辰馬の足取りは更に重くなっていて、隣を歩いている私が度々立ち止まってしまう程。


それでも、何も言わずにぎゅっと手を握り返すと、辰馬の手にも少しだけ力が入って、前へ前へと歩を進める。


そうやって何度も何度も繰り返して、私たちは目的地に到着した。

足元がアスファルトから砂利へと変わり、静まり返った辺りによく響く。


明かりが少なく見通しの悪くなっている道を、辰馬は真っ直ぐに進み、私も転ばないように気を付けながら、その手の導くままについて行った。


そして、突き当たりまで進むと、一つのお墓の前で立ち止まった。


「・・・ただいま。」


ずっと沈んでいた顔が、少しだけ緩んだように見えた。


ポケットからロウソクを取り出して火をつけると、ゆっくりと手を合わせる。

私もそれに合わせて、少し後ろで手を合わせた。


ロウソクの明かりで、石に刻まれた名前が浮かび上がり、それが坂本家のお墓である事を知る。


目の前の背中は小さく丸まったまま動かない。


きっと、久しぶりの再会で話したいことがたくさんあったんだろう。

それに答えるように、緩く吹き抜けた風が木の葉を揺らした。


そんな様子を後ろから眺めていた私の方へと辰馬が振り返ったのは、それからしばらく経ってからだった。


「すまんのう。こげな所まで付き合わせて。」


申し訳なさそうに笑ったその顔は、朝見た時より大分いつもの辰馬の顔に戻っていた。


「ううん。」


笑顔を返すと、私の横に並び腰を下ろした。


「ここには、ワシの母ちゃんと姉ちゃんが眠っちゅうんじゃ。」


「そうなんだ・・・」


「母ちゃんはワシがまだガキん頃に病気で死んでしまってのう・・・代わりに姉ちゃんがワシん事ば育ててくれたちや。」


「・・・じゃあ、辰馬のその性格はお姉さん似・・・なのかな。」


昔を思い出すように宙に視線を移し、笑顔を浮かべながら言葉が返ってきた。


「はは・・・そうじゃのう。じゃが、姉ちゃんはワシなんぞと比べ物にならんくらいはちきんじゃったき。」


「え、ほんとに?」


「おう!そりゃあ厳しい人だったぜよ。」


それから辰馬は、子供の頃のお姉さんとの思い出をたくさん話してくれた。


泣き虫でいじめられっ子だった辰馬に武芸を教えた事。

怒られすぎて、度々夢を見てはうなされた事。

勉強を教えたり、夜尿症を治してくれたのもお姉さんなんだとか。


寂しそうに。けれど、楽しそうに懐かしんでいる辰馬を見て、私も自然と笑顔になった。


「まぁ、ガキん頃はただ怖いだけの姉ちゃんじゃったが・・・今は、厳しく躾けてくれたこと、感謝しゆうぜよ。」


「そう・・・だね。すごく素敵なお姉さんだったんだね。」


「あぁ。・・・・・・それなのに・・・それなのに、ワシは・・・」


辰馬の顔が突然険しくなって、握り締めた拳を悔しそうに見つめた。


「目の前で消え行く命を・・・・・・姉ちゃんを、救えんかった・・・」


「もしかして・・・」


「・・・そうじゃ。あの戦争で、姉ちゃんも死んでしまった。」


強く握られたままの拳に触れると、その手は悔しさで震えていた。


「そん時、姉ちゃんに言われたんじゃ。“大義を見失うな”って。深手ば負っちょったき、もう助からん事はわかっちょったんじゃろ。助けようとしたワシん手ばぎゅっと握って、そう言ったんじゃ。」


拳に触れていた私の手に反対の手を重ね、少しだけ笑顔を見せた。


「ワシが戦争に参加しようと思ったんは、そん時じゃ。あの頃のワシにはまだ、“大義”が何なのかわからんくてのう。奴らに復讐することしか考えちょらんかった。」


大切な人間を目の前で失う事の辛さは、私なんかが思っているよりずっとずっと、悲しみとか後悔とか色々な感情が混ざり合って出来るものだと思う。

当時の辰馬の気持ちを考えると、胸が張り裂けそうになった。


「じゃがのう・・・戦って戦って、また目の前で大事な仲間が死んでいくところば見ちゅう内に、気付いたんじゃ。大義っちゅうんは、こげな所で戦うことじゃなか。姉ちゃんが言うっちょったんは、こげな事じゃなか・・・ってのう。」


「それで、今の辰馬が在るんだね。」


「・・・おう。そうじゃ。今のワシが在るんは、全部姉ちゃんのお蔭じゃ。」


「やっぱり、素敵なお姉さんだなぁ。」


改めてお墓を見つめていると


「・・・あ。」


何かを思い出したかのように、辰馬が声をあげた。


「ん?」


「あと、陸奥のお蔭でもあるのう。」


「・・・ふふ。そこも忘れちゃいけないとこだね。」


「陸奥も姉ちゃんによく懐いちょったからのう。毎日のように遊びに来ちょったぜよ。」


「そうだったんだ?」


「あの日も・・・姉ちゃんは陸奥と一緒に居った。そして、崩れてくる建物から庇って・・・」


「・・・そっか。」


「ワシが快援隊の話ば持ちかけた時、何も言わんと乗ってくれてのう。最初は償いの気持ちもあったんじゃろうが・・・アイツにも姉ちゃんの意思はちゃんと受け継がれちょった。今じゃ、陸奥は快援隊になくてはならん存在じゃ。」


辰馬の考えに共感すると同時に、陸奥には辰馬を通してお姉さんの姿が見えているのかもしれない。

だからこそ、どんな状況でも辰馬を支え続けているのだろう。


「きっと、お姉さんは今の辰馬の姿を見て、喜んでるだろうね?」


辰馬の方へと向き直ると、弧を描いていた瞳から、涙が一筋流れ出た。


「あ、れ・・・ははは・・・・・・ちっくと色々思い出しすぎたちや。」


隠すように目元覆っていた手の隙間から、次々と零れ落ちる。


「・・・しょーがないなぁ、もー。」


その姿が可愛く見えて、モジャモジャ頭を肩に引き寄せた。

されるがままの辰馬は、少しの間そこで泣き続けていた。




立てていたロウソクはすっかり溶けて、消えてしまっていた。

代わりに夜空に浮かんだ月が、私たちを照らしている。


「今日は、色々とありがとうのう。」


「ううん。連れて来てもらって、よかったよ。」


「・・・やっぱり、おまんと一緒に来てよかったぜよ。」


「え・・・?」


「いや・・・一人で来るか、迷っちょったんじゃ。カッコ悪いところば見せる事になるとわかっちょったき。」


確かに辰馬はいつもと別人のようで、辰馬からすれば今日の自分は“カッコ悪い”のかもしれないけど、私からすれば、全てを見せてくれたような気がして嬉しかった。


「じゃが・・・おまんが居らんかったら、ここまで来れんかったかもしれん。途中で引き返すどころか、電車にも乗れんかったじゃろう。じゃき、傍に居ってくれてよかったぜよ。」


「・・・なら、よかった。」


「・・・ったく、ワシの周りの女子はしっかりしすぎてていかんのう。ついついワシが甘えてしまう。」


「あはは。そこはきっと、お互い様なんだと思うよ。」


「そうかのう?」


「うん。そうだよ。」


「そうか。・・・と、何だか長居してしまったのう。そろそろ、行くか。」


最後にもう一度だけ手を合わせると、辰馬は片手を上げて笑った。


「姉ちゃん、また来るぜよ。」



                                          ―完―



―――――――――――――――――――――――――――――――――


―あとがき―


今日が乙女姉さんの命日だと聞いて、前々から書きたかったものを。


もし、原作で辰馬の子供の頃とかの話をするなら、きっと出てくるキャラだとは思う・・・と言うか、個人的には空知先生が乙女姉さんをどう表現するのかが非常に気になってるんで、ゼヒ出して欲しいところだったりするんですけどもw


近藤さんに負けず劣らずのゴリラっぽい感じに人になるのかなぁ・・・とかw

もう天知くんがそのまま使われちゃうんじゃないか・・・とかw

月島ゆりちゃんのお母さんみたいな感じかなぁ・・・とかねw


名前もきっと、相当酷いことになりそうですよねwww

どうしよう、もう何か“ゴリラ”とかだったらwww


そんなことを想像しては、ニヤニヤしておりますw←



色々な小説を読んだり、文献を読んだりした訳じゃないので、自分の持ってる知識は「ネット上で調べれば誰でもすぐわかる程度」でしかないのですが、自分にとって乙女姉さんは非常に尊敬する人物です。


龍馬さん以上にカッコいい人で、そんな乙女姉さんに育てられたんだから、龍馬さんだってカッコよくなる訳だよな、と一人納得。


幕末を生きた人間ってのは、男女問わず立派な方が多いですね。

そして、生き様が「見事!」としか言いようがない。


偉人だけでなく、それを支えてた周りの人たちの逸話に、ただただ感嘆するばかりです。



・・・って、堅苦しいのはこんなところにして。


辰馬にも姉がいればいいなぁ、とw

今回は、時期的に亡くなっている設定の方の妄想を書かせてもらったんですが、ご存命での妄想もしちゃったりしてますw


家に帰る度にお説教くらってたりとかw

怒られても笑ってる辰馬とかw

そんでぶっ飛ばされる辰馬とかw


夢で書くなら・・・きっと女の子を歓迎してくれるだろうな、とかw

手綱の握り方を教えてくれるんだろうな、とかw


妄想が止まりません(゜∀。)ワヒャヒャヒャヒャヒャヒャ


今回の話も、すっごく妄想が膨らんで。

膨らみすぎちゃって、超長編になってしまいそうだったんですけどもw


今の自分にはそんな長いのを書く気力がなかったので、無理矢理圧縮しましたw


いつもの事ながら、話飛びまくったり読みにくかったり、色々とすみませんorz

陸奥のくだりを端折ろうかとも思ったんですが、どうしても書きたくなってしまって。


じゃあ、いっその事陸奥と辰馬で行けばよかったんじゃないかとも思ったんですが、そうなると辰馬の心情とか書きにくくなるし、底に陸奥の心情まで加わって長くなるよなぁ・・・と。


そんなことを色々と考えながら書いておりましたw


タイトルはいい言葉が全然思い浮かばなかったので、最後の台詞を持っていきましたw

納得はいってないけど・・・他にいいのがないから仕方なす(´・ω・`)


辰馬と陸奥って何歳離れてるのか知らないですけど、そこそこ年の差があって、ご近所さんだったらいいなぁ・・・とか思ってますw


で、セクハラしてくる辰馬のことは大っ嫌いなんだけど、面倒見のいい辰馬姉は大好きで、頻繁に遊びに行ったりしてればいいw


あー、妄想が止まらんぜよ!アッヒャッヒャ!ヽ(゚∀゚)ノアッヒャッヒャ!←


これ以上書くと、あとがきも長くなってしまいそうなので、ここら辺で〆ときますw

お付き合いくださった方々、ありがとうございました!