ぐっどもーにんぐ ~真選組副長の場合~
カタカタという控えめな物音で夢と現を彷徨っていた時、どこからともなく嗅ぎ慣れた香りが漂ってきた。
それは、得意ではないけれどひどく安心するもので、一瞬にしてまた夢の世界へ引き込まれそうになるのをぐっと堪えた。
その発信源がどこなのかをすぐに理解したから。
「・・・おはよ。」
「ん・・・悪い。起こしたか?」
「大丈夫。起きてた。」
「嘘付け。」
口角を上げ、大人の色香を放つその顔でコチラを見ているのは、“鬼の副長”と恐れられる真選組副長の土方十四郎。
整った顔立ちはしているものの、あの鋭い眼光を見せられては、同性異性問わず近づくことを躊躇われる。
私自身、初めて会った時は近寄りがたい人だと感じた。
たけど、時折垣間見える優しさに、この人の不器用さを悟った。
「もう出かけるの?」
昨晩はいつ帰ってきたのか。
日付が変わるまでは起きて待っていたはずだから、それ以降のこと。
それなのに、もうすっかり身支度を整えて出かける前の一服を嗜んでいるところだった。
「あぁ、今日は朝から会議だ。」
あまり寝ていないのに、疲れた顔は一つも見せない。
面倒事を背負い込んでも、愚痴一つ言わない。
そんな仕事にストイックなところをかっこいいとは思うけれど、いつか体を壊すのではないかと不安にもなる。
だからと言って、それを口に出して心配する様な真似はしたくない。
自分から何も言ってこないのであれば大丈夫なのだろうし、聞いたところで返ってくる言葉は決まってる。
それなら、私にはただ見守ることだけしか出来ないのだ。
「そうなんだ。」
肩からずるりと落ちた重みに目を向ければ、見慣れた隊服が映る。
座ったまま眠ってしまった私を見兼ねてかけてくれたのだろう。
それでも、「風邪ひくなよ」なんて言葉をかけてくれはしない。
・・・と言うか、そんな言葉は必要ないのかもしれない。
かけてくれた隊服にはいろんな意味が込められていて、私はしっかりとそれを受け取った。
言葉で言い表すことが出来ない気持ちや想いを、たくさん受け取った。
だから、二人にとって言葉はそれほど重要なものではないと思っている。
「コレ、ありがと。」
落ちてしまった隊服を持ち上げると、少しばかりバツの悪そうな顔をしながら煙草を消した。
「ん。」
言うが早いか、立ち上がり玄関へと向かう。
それに続いて、私も後を追った。
隊服に袖を通せば、もうすっかり仕事モードの顔になっていて、さっきまでの表情は私しか知らないのだと思うと嬉しくなる。
「・・・何笑ってんだ?」
「んーん。何でもない。」
怪訝な顔にニヤけたまま言葉を返すと、眉間に少し皺が寄った。
「ほら、遅れるよ!いってらっしゃい。」
慌てて背中を押して、前へと促す。
そんな様子に諦めたのか、大きく息を吐いて扉に手を掛けた。
「行ってくる。」
いつもと変わらないその光景。
出て行く背中を見送って、私も今日一日頑張ろうと気合を入れる。
そうなるばずだった。
扉に手を掛けたまま動かない十四郎に、「忘れ物でもした?」なんて声をかけようとした時。
「・・・ってなくていいから。」
「え・・・?」
よく聞き取れなくて不思議そうに顔を覗き込むと、どこか違和感のある様な顔をして口ごもっている。
「十四郎?」
「だから・・・・・・待ってなくていいって言ったんだよ。」
何で急にそんなことを言ったのかと呆気にとられてしまった。
「えっと・・・」
「眠いなら、先に寝てろ。」
ぶっきらぼうな言い方ではあるが、言葉の節々から優しさが溢れ出ている様に感じる。
「あ・・・うん。」
「でもまぁ・・・なんだ・・・・・・ありがとな。」
そんな言葉を口にすることなんて滅多にないから、面食らってしまった。
言われなくてもそう思ってくれているとは感じていたのだけれども、面と向かって言われるのは勝手が違う。
「う、うん。」
気まずい様なくすぐったい様な・・・微妙な空気が二人を包み込んだ。
「そ、それじゃ行ってくる。」
くるりと背を向けた十四郎の耳が、ほんのり赤く染まっているように見えた。
言葉にしなければ伝わらないこともある。
だけど、言葉にしなくても伝わることもある。
少なからず、私と十四郎はお互いに後者で十分だと感じていたはずだ。
そして、その気持ちは今でも変わっていない。
でも―― 言葉にしてもらった方が嬉しいこともある。
何より、言葉の方がずっとずっと相手の心に届くのだと気づかされた。
「十四郎。」
「・・・あ?」
「無理、しないでね。」
「しねぇよ」とか「わかってるよ」とか、きっとそんな感じのことを言おうとしたしたのだろう。
それがわかっているから、今まで敢えてそんな言葉をかけたことはなかった。
口を開きかけた十四郎が、その言葉をグッと飲み込んだ。
「・・・ありがとな。」
フッと息を吐き、頭を撫でてくれる。
そんな出来事が新鮮で、たまにこういう日があってもいいんじゃないかと思った。
「明日は休みだから、久々に二人でゆっくりするか。」
いつもより甘さ多めの朝。
起き抜けのコーヒーはブラックでいいかななんて、また顔が緩んだ。
~おわり~
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―あとがき―
短編とか、すごく新鮮・・・←
だけど、行き当たりばったりで書いたからgdgdなところは変わりません。
・・・仕様でs(ry
えぇと、タイトルにて“○○の場合”と書いている通り、シリーズ化と言うほど大層なものではないですが、いろんなキャラで書けたらいいかななんて思って始めてみました。
とりあえず、色々と想像した結果。
何故だか一番最初に書き始めてしまったのが土方くんでした。
全蔵で書こうと思っていて辰馬に流れていたはずなのに、何でこうなったんだろう・・・と、自分が一番ビックリしてます。
EROなしギャグなしなんて、久々に書いた気がする。
もう、いつもいつも無駄に絡みシーンがあったりでうんざりしていたので(←お前だろ)、ちょっとばかし爽やかな感じに仕上げてみました。
その爽やかさにちなんで、タイトルもこんな感じです。
と言うか、そもそも朝をテーマにした理由と言うのがですね。
朝、ベランダで洗濯物干してたんですよ。
そしたら、隣の部屋の兄ちゃんがベランダで煙草吸ってまして。
いや、もちろん仕切りはあるから見えないんだけど、隣から思いっきり煙草の臭いがしてたので「あぁ、いるな」と。←
んで、その時に携帯に電話がかかってきたみたいで。
出て早々に、「おはよ」って言ってたんです。
・・・だから。←ちょ、全然わかんねぇ
あのー・・・なんて言えばいいのかな。
一人暮らししてると、人に「おはよう」って言う機会があんまりなくて。
まぁ、家族にも「おはよう」とかは言ってなかったと思うけど。
学校行ってれば友達に会う度に言うし、会社でもそれは同じ事なんだけど。
引き篭もってると、言わなくなる訳で。←
だから何となく、「おはよ」って言葉がすごく新鮮に感じたんです。
そしたら、そっから色々と妄想しちゃったりなんかしたりして。
洗濯物干しながらニヤニヤしてる自分、キモイったらありゃしない。
朝は苦手なタイプなんだけど、友達とか付き合ってる相手と一晩過ごした次の朝ってのは好きだったりしますw
何か、楽しくないですか?←え
友達とお泊り会した次の日の朝とか、何気にテンション高くなりますw
とは言っても、元のテンションがものっそ低いから人並みレベルにしかなれませんがw
そんなこんなで、朝をテーマにしてみました。
そいで、何で土方くんになったんだろ・・・←知らん
確か、『上着を肩からかけてもらう』って言うのを思いついて、辰馬に使おうかと思ってたはずなのに、起きて待っている状態ってのを想像した時に、土方くん相手の方が想像しやすかったからだったかな?
何かよくわかんないけど、多分そんな感じです。
最初にも言ったけど、ネタは全く考えてなかったのですごく行き当たりばったり。
こんな書き方したのすごく久しぶり。
交わす言葉が少なくても、ちゃんと分かり合える関係っていいですよね。
相手を信用できているって事でもあるんだろうし。
賛否両論あるとは思いますが、別になんとも思ってないのに心配してるってことを伝えて満足してる偽善者や、心配してる自分が優しくて素敵だなんて思ってる自己陶酔型の人なんかより、全然いいと思います。
そういう関係が築けるなんて、きっと人生でそう何度もないんでしょうけども。
兎にも角にも、自分の頭の中にある土方くんはこんな感じで、不器用ではあるけども礼節を重んじるしっかりとした人間なんですよって事が伝わればいいのかななんて思いますた。
土方ファンの皆様、勝手な妄想サーセンっした!
次回は本命書けるかなーと思いつつ、総悟が出張ってきてるのでどうなるか・・・
とりあえずまた、お付き合いいただけるとありがたいですw