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この話は、コタさんの書かれた【はじめての恋】の設定をお借りしております。

そちらを拝見した上で、お読みいただければありがたいです。


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紡ぐ絆 (前編)



月日が経つのは早いもので・・・

京次郎さんと、2人きりの祝言を挙げてから3ヶ月が過ぎた。


2人の名前を書いた紙は、京次郎さんと2人で写った唯一の写真と一緒に、写真立ての中に入れてある。
たくさん泣いたせいか、あの日以来涙は出てこなかった。

だけど、もう―――
眉間にシワを寄せた顔を見る事は出来ない。
豪快な笑い声も聞こえない。
大きくて優しい手が・・・私に触れる事はない。

そう思うと、寂しさで押し潰されそうになった。

「京次郎さん・・・」

名前を呼んでみたけど、返事が返ってくる訳もなくて。

「・・・可愛い可愛い奥さんが、あなたに会いたがってますよー。」

わざとふざけた事を言って、気を紛らわせるしかなかった。

そんな事をしていると、玄関のチャイムが鳴った。

「はーい。今、行きまーす。」

ガチャリとドアを開けた私の目に、見慣れた顔が映る。

「あ、万事屋さん。」

「よぉ、久しぶりだな。」

「ふ・・・ふふ。一昨日来たばかりじゃないですか。」

「あ?そうだったか?昨日より前の事は覚えてねぇんだよ。」

2人して、顔を見合わせて笑い合った。

万事屋さんは、あの日以来よく顔を出してくれる。

京次郎さんの写真に声をかけ、他愛のない会話をしては帰っていく。
京次郎さんと万事屋さんにどういう繋がりがあるのかはよくわからないけど、2人の間には言葉で表す事の出来ない絆みたいなものがある気がする。

そして、さりげなく私の心配をしてくれているんだろう。

「何か変わった事はねぇか?」

「あ、うん。大丈夫です。」

ほんとは、最近あまり体調がよくなかったりするんだけど、これ以上心配してもらう訳にはいかない。

「なら、いいけどよ。・・・でも、何か顔色悪くね?」

「えー、そうですか?全然元気ですよ?」

笑いながらそう言うと、彼も笑顔を返してくれた。

「ま、何かあったら言えよな。万事屋は何でも引き受けるからよ。・・・あ、もちろん金はもらうよ?まぁ、多少の値引きはしてやっから。」

「あはは。お金取るんですか~?」

「ったりめぇだろ?それが俺の仕事だからな。」

再び2人で笑い合っていると、不意に視界が歪んだ。

「あ、オイ!」

全身の力が抜けたかと思ったら、次の瞬間には目の前が暗くなっていた。



「・・・ょうさん。・・・お嬢さん。」

何だか耳元で、聞き慣れない大きな声がする。

「ん・・・だ、れ・・・?」

「気付きましたか!いやぁ、良かった良かった。」

薄っすらと目を開けると、面白い形の眉毛をした長髪の男の人が、顔を覗き込んでいた。

「あれ・・・私・・・。えっと、ここは・・・?」

「お嬢さん、こんなところで寝てると風邪ひきますよ。」


「あ・・・はい、すいません・・・。で・・・ここはどこですか?」


「暖かいと言えども、体調管理には気をつけなければいけませんよ!」


「いや、だからここは・・・」


「では、私はこれで失礼します!」


「あ、ちょ・・・!・・・・・・何なんだろう、あの人・・・」


耳が痛くなるくらい声が大きいし、人の話は全く聞かないし・・・

何で私がここにいるのかもわからないし、ここがどこかもわからない。


確か、さっきまで万事屋さんと一緒にいて・・・

そうだ。万事屋さんはどこ行ったんだろう?

もしかして、話してる途中で寝ちゃったのかな?

じゃあ、これは夢の中・・・?


色々と考えてみたけれど、ほんとの事はわからないまま。

見渡す限り白一色の妙な場所で、私は途方に暮れてしまった。


「どうかしました?」


突然、後ろから声をかけられて驚いた私は、何かで足を滑らせて転びそうになってしまった。


「ぅわ・・・!」


「危ない!」


既のところで身体を支えられて何とか体勢を立て直した。


「あ・・・すいません。」


「いや・・・危ないところだった。・・・これは・・・・・・はぁ。あの人のか。」


「え?それって・・・」


私が足を滑らせた原因は、足元に転がっていた一味唐辛子の瓶だった。


「知り合いの方の物なんですか?」


「あぁ・・・まぁ。すまない。代わりに詫びを・・・」


「いえ、全然大丈夫ですから。」


笑って見せると、その人も戸惑いながら笑顔を見せてくれた。


「そうか。・・・じゃ、僕はこれで。」


「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」


「・・・何か?」


「あの・・・変な質問だと思うんですけど・・・・・・ここって、どこなんですか?」


「君は・・・・・・どうしてここに?」


「それが・・・わからないんです。信じてもらえないかもしれないけど・・・」


さっきまでの出来事を大まかに話すと、彼は黙って話を聞いていてくれた。


ただ、私が「万事屋さん」と呼んだ人についてだけ、いくつか質問をされた。

簡単に説明すると、「あぁ。」と一言呟いて笑っていた。

どうやら、万事屋さんとは知り合いみたいだ。


「・・・そうか。ここは・・・いや。君には、会いたいと思ってる人がいるんじゃないか?」


「え・・・」


京次郎さんの事は、何一つ話していない。

だから、この人が知っているはずがない。

でも・・・どうして私に会いたい人がいるのがわかったんだろう・・・?


「ここは、会いたい人に合える場所・・・そう思っておくといい。」


「会いたい人に・・・会える・・・場所・・・・・・」


「それじゃ、僕は失礼するよ。」


よくわからないままペコリと頭を下げると、「あ・・・」と言う声と共に彼は振り返った。


「転ばないように、気をつけたまえ。」


「あ・・・はい。ありがとうございます。」


ワザワザそんな事を気にかけてくれるなんて、優しい人なんだな・・・

あ。名前くらい聞いておけばよかった・・・


その人が立ち去った後、ようやく頭の中が整理できた私は、失礼な事をしてしまったと反省した。


後を追いかけようと歩き出すと・・・


「あの。」


またしても後ろから声をかけられた。

今日はよく声をかけられる日だなぁ・・・


振り返ると、そこに立っていたのは綺麗な女の人。


「何ですか?」


「探し物をしているんですけど・・・この辺りで、一味唐辛子の瓶を見かけませんでしたか?」


「一味唐辛子の・・・・・・あ。そう言えば、さっき・・・」


って、あの人が持っていっちゃったんだっけ。


「あの・・・さっきここに落ちてたんですけど、眼鏡をかけた男の人が持っていっちゃって・・・」


「あら。眼鏡をかけた男の人・・・もしかして、鴨太郎さんかしら?」


「名前はわからないんですけど、あなたが落とした事を知っていたみたいだったので、後で届けてもらえると思いますよ。」


「そうですか。よかった。あれは大事な物なの。」


「唐辛子の瓶がですか?」・・・と突っ込もうとして、やめた。

人それぞれ、大事だと思うものは違うから。


「あの人、鴨太郎さんって言うんですね。お礼を言いそびれてしまったので、もしよかったら伝えていただけますか?」


「ええ。ちゃんと伝えておきます。」


すごく綺麗に笑う人だと思った。

その顔を見ているだけで、自然と心が温かくなってくるような・・・


そう思っていた時、その人が懐から取り出したものを見て驚愕してしまった。


「辛い物は、お好きですか?」


「え・・・あの・・・・・・まぁ、好きですけど・・・」


「まぁ、よかった!これに、タバスコを付けて食べると・・・あら?」


「・・・どうかしました?」


「あなた、あまり刺激の強いものは食べない方がよさそう。」


「・・・へ?」


「身体、大事にした方がいいわ。」


「え・・・は、はい・・・」


何なんだろう?

さっきから会う人会う人、ヤケに身体の心配をしてくれるんだけど・・・


「それじゃ、私はそろそろ戻りますね。鴨太郎さんと擦れ違いになってもいけないし。」


「あ、そうですね。じゃあ、私は・・・」


「あなたは、この道を真っ直ぐ進んでくださいね。」


「真っ直ぐ・・・?」


聞き返したけど、聞こえなかったのか返事はなかった。


どうして真っ直ぐ進むように言われたのかはわからないけど、これからどうしたらいいのかわからなかった私は、その通りに進んでみる事にした。




どこまで歩いても、果てしなく広がる白い景色。


ちゃんと真っ直ぐ歩いてこれているのか不安だけど、何となく間違ってはいない気がした。


道の先で何かが導いてくれている。

私の中の何かが導いてくれている。


そんな風に感じた。


そう言えば・・・鴨太郎さんが言っていたっけ。

「ここは、会いたい人に会える場所」だと。


じゃあ、この道の先で待っているのは・・・


「よぅ、お姉ちゃん。」


・・・まただ。

ほんとに今日は、よく声をかけられる。


「・・・何ですか?」


「ワシと缶蹴りでもせんか?」


「は?缶蹴り・・・?」


声をかけられたのは、眼鏡をかけた・・・結構お歳を召されたおじいさん。


「色んな奴に声かけとるんじゃが、なかなか遊んでくれる奴がおらんくての~。」


そりゃ、そうでしょう。

今のご時世、缶蹴りなんて子供でもしないだろうし・・・

まして、こんなおじいさんと・・・


「どうじゃ?お姉ちゃん。」


「あ・・・すいません。ちょっと急いでるもので・・・」


「1回だけでも付き合って・・・お?そうかそうか。お姉ちゃん・・・そうじゃったか。」


「え?な、何か・・・?」


「いやぁ、すまんすまん。他をあたってみるかの。じゃ!」


わけがわからないうちに、おじいさんは目の前からいなくなっていた。


何に納得して、おじいさんは諦めてくれたんだろう?

私、何かしたっけ・・・?


この場所に来てから、頭から“?”が消えない。

むしろ、どんどん増えていっている気さえする。


何度か立ち止まりはしたものの、それでも真っ直ぐに歩き続けた。



                                         ―続く―