辰馬誕生日記念(出遅れ) 坂高小説 | じゃすとどぅーいっと!

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≪注意≫

BL作品ですので、苦手な方はバックブラウザ推奨です。

また、激しく捏造されたお話となっておりますので、閲覧の際は十分お気をつけくださいまし。

苦情は受け付けません。悪しからず。


前作はコチラから⇒闇夜の虫は光に集う (壱)
           闇夜の虫は光に集う (弐)




闇夜の虫は光に集う (参)


思い出したくもねぇあの日。

幸か不幸か・・・一命をとりとめた俺は戦に参加する事を辞め、己が道を歩き始めた。


銀時やヅラは最後まで悪足掻きを続けていたらしいが、今となっては穏健派を気取っていやがる。

銀時にいたっては、攘夷志士ですらねぇ。

刀と一緒に牙まで戦場に置いてきたたァ、情けねぇ奴らだ。


光にはなれねぇし、なる気もねぇ。

・・・が、人を集めるには光も必要だ。


暗闇の中じゃ、鈍い光でも眩しく感じられる。

“報復”と言う名の、偽物の光でも・・・


俺は、そんな光に集まってきた奴らを率いて鬼兵隊を結成し、京に身を潜めた。


先生を殺めた人間や、それを指示した幕府のお偉方を手始めに、多くの要人を粛清。

最終的には、天人をも抱き込んで全てを壊し尽くす事を目的としたこの義勇軍は、俺にとっての生きる意味となっていた。


宇宙海賊『春雨』と言う巨大組織があると聞き、再び江戸へと舞い戻った俺は、交渉へと出向いていた万斉から意外な人物の名を聞く事になる。


「『快援隊』と言う貿易船からの情報らしいのだが・・・晋助、どうするでござる?」


「それは確かな情報か?」


「春雨の連中が言うには信用出来る、と。」


「快援隊・・・」


「主も、名前くらいは耳にした事もあるでござろう?星間貿易業を営んでいる組織の中で最大手。確か社長の名は・・・坂本と言ったはずでござる。」


「坂本?」


「坂本辰馬。」


「坂本・・・・・・辰馬・・・」


「・・・晋助、知っているでござるか?」


「・・・・・・いや、知らねぇ。」


ここにきて、またその名を聞く事になるとは・・・な。


だが、今の俺は昔の俺とは違う。

そんな事で動揺したり・・・まして、会いたいと思う訳でもねぇ。


ドクリと疼いた左目に手をやると、万斉が顔を覗き込んだ。


「痛むでござるか・・・?」


「・・・・・・」


「その痛み、拙者が半分貰ってやろう・・・」


伸びてきた手に身を任せると、万斉の口元から笑みが零れた。


「今日はヤケに素直でござるな・・・」


「・・・・・・」


「素直な晋助も好きでござるよ。」


「・・・黙って抱け。」


「フッ・・・仰せのまま・・・」


あんな事があったから、ヤケになってこういう関係をもった訳じゃねぇ。

寂しかったとか、そういう事でもねぇ。


ただ欲を満たすだけの、気持ちのない行為。


そういう相手との距離感が、俺には心地よかった。

付かず離れずの、この距離が・・・


隣で眠っている万斉の腕から抜け出すと、窓辺に座って煙管を銜えた。


さっきまでの熱を奪っていった夜風も、この疼く左目の熱だけは拭おうとはしねぇ。

それどころか、ざわつく心に共鳴するように脈打つ傷痕が、更に熱を増していった。

『星の数ほど男はあれど、月と見るのは主ばかり』


アイツはそう言っていた。


“主”に当てはまるのが俺だと自惚れる気はねぇが・・・

あの男とにっては、星と月に大差はないと・・・今は思う。


所詮、生き物が住んでいないモノには価値がねぇ。

そう思っているはずだ。


「クク・・・俺もまだまだ青かった、か。」


「ん・・・・・・晋助?・・・風邪、ひくでござるよ。」


「・・・あぁ。お前が温めろ。」


「フッ。珍しいでござるな。晋助から求めてくるとは。」


「・・・シたくねぇか?」


「いや・・・たまにはこう言うのもいいでござる。」


何もかもを忘れるくらい、溺れたかった。

だが、どれだけ快楽にのまれても俺の中の光が消える事はなかった。






大きな祭りがあるせいか、今日は街全体がざわついている。


どうせならド派手にやるのが、祭りの醍醐味だ。

まして、将軍様の御出座しとあっちゃ、俺たちが参加しねぇ訳もねぇ。

そろそろ前哨戦も仕舞ェにしようじゃあねぇか。


辺りは段々と暗くなり、出店の明かりが灯っていく様子を少し離れたところで見ていた俺に、万斉が白い状袋を差し出してきた。


「・・・何だ?」


「先程、春雨の連中に会った時に渡すように頼まれたでござる。」


状袋の裏を見ても、差出人の名前は書いていない。


「誰からだ?」


「渡せばわかると言われただけで、拙者も知らんのだ。」


中を見れば、紙切れが一枚入っている。

その紙切れにも、俺の名はおろか、差出人の名すら書いていない。

ただどこかの地図が記されているだけ。


「心当たりはないでござるか?」


ない訳じゃねぇ。

春雨の中の誰かからならば、差出人の名くらい書いているはずだ。

それに、わざわざ俺が出向く必要もない。


春雨との繋がりがあって、俺の事を知っている人物・・・


「・・・晋助?」


「ねぇな・・・」


「・・・行くでござるか?」


「・・・あぁ。」


「ならば、拙者かまた子が・・・」


「いや、いい。俺一人で行く。」


「・・・そう、か。」


「万斉。」


「・・・何だ?」


「後の指揮、頼んだぞ。」


「・・・任されたでござる。」


行く必要も義理もねぇのに、俺がアイツのところへと向かう理由。


会いたいなんて甘っちょろいモンじゃねぇ。

どんな面して俺を迎え入れるのか・・・それが見たいだけだ。


祭りへと向かう喧騒もなくなり、すっかり空になった街の外れにある宿が、この地図に記された場所だった。

宿側にも話が通してあったらしく、入って早々に二階の一番奥の部屋へ向かうように言われた。


俺が来る事が当然だとでも言いたげな対応に苛立ちを覚えたが、ここまで来て引き返すのもまた癪に触る。


静まり返った廊下を進みながら、ざわつき始めた気持ちを押さえつけた。


襖の前に立ち手をかけると、中から声が聞こえる。

それは、アイツのものではなく・・・女の声。


開けるのを躊躇って手を引くと、今度は聞きなれた声が飛んできた。


「・・・晋助か?そげなとこにおらんと、入ってくるぜよ。」


高鳴る鼓動に、左目の傷が呼応する。

再び襖へ手をかけると、スッと引いた。


「っ・・・!」


その部屋にいた辰馬は、俺を出迎えるでもなく。

顔を向けるどころか、俺に背を向けたままで・・・誰とも知れない女と情交を愉しんでいる最中だった。


「晋助、久しぶりじゃのう。」


やっとコッチを見遣ったその顔は、詫びや言い訳をする気は全く感じられず、昔見たままのあの顔で笑いかけてくる。


「・・・お前、人の事呼び出しといてこの様たァ、いい度胸だ。」


「あはははは!おまんはやっぱり変わらんのう。」


「るせぇ・・・。用がねぇなら帰るぞ。」


「まぁまぁ、そげな事言わんと。どうじゃ、お前も一緒に愉しまんか?のう?」


「んー?・・・うん!カッコイイし、全然いいよー。」


「ほら、お姉ちゃんもこう言ってる事じゃ。折角じゃから・・・のう?」


ふざけた事をぬかしやがる。

ヘラヘラと笑いながら、俺の事を試すかの如く向けられた視線は、俺を射竦めたあの眼と何も変わっていない。


「・・・俺にはそんな趣味はねぇ。愉しみたきゃオメェらでやってろ。」


「何じゃ、ツレないのう。久々におまんと・・・」


「帰る。」


後ろ手で襖を閉めると、俺を追ってくる気配もなく、中からはまた痴情に溺れる声が聞こえ始めた。


必死に押さえつけていた理性が、プツリと切れる音がする。


宿を出た俺は、近くに身を潜め・・・

数時間後に出てきた女を路地裏へと誘い込み・・・

アイツが付けたであろう痕が残る喉元を、勢いよく掻っ捌いた。


辺りを染め上げる血を見ても、この衝動は止まらず・・・

何度も何度も、刀を振う。

鼓動すら発する事の出来なくなった、その身体めがけて・・・


するとその時、夜空を彩る光と、轟音が響き渡った。

祭りの会場では、からくり技師による花火が始まったようだ。


その音にようやく我に返ると、辺りは血の海で、自身も返り血を浴びて朱に染まっている。

刀に付いた血を払い鞘に収めると、そのまま来た道を引き返した。




「晋助!その格好・・・」


「何でもねぇ。」


「そう、でござるか・・・」


「なぁ、万斉。」


「何でござる?」


「今すぐ抱け。」


「・・・晋助?」


「嫌、か?」


「・・・わかった。」


何かに縋り付きたくて仕方がなかった。

相手は誰でもいい。

例え一瞬だとしても、アイツの事を忘れる時間が欲しかった。


血の滲み込んだ着物を脱がせると、万斉は肌に付いた血を丁寧に舐め取っていく。

まるで、俺の傷を癒すかのように。


「・・・万斉」


「ん・・・」


「もう、いい。早く・・・」


重なった身体の重みに少しだけ安心した俺は、もっともっとと欲張るように、万斉の背中へと爪を立てる。

気休めの安らぎでも、今の俺には十分だった。


「万斉・・・・・・ば・・・んさい・・・」


貫く熱を感じながらも、俺の目に焼き付いた光景と再び湧き上がるこの想いが、行為に没頭することを頑なに拒んでいる。


「晋助、大丈夫でござる。拙者はここにいるでござるよ・・・」


空が白むまで求め続けた快楽は、結局俺を満たす事はなく・・・

溢れ出した想いが募っていくばかりだった。



                                         ――続く