高杉くん誕生日記念小説 獣祭り 【盈月】 | じゃすとどぅーいっと!

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高杉くん誕生日記念小説 Moon Phase ―弦―  の続編です。


Moon Phase ―望―



9月も目前だと言うのに、一向に暑さが弱まる気配はない。


シンが来てからと言うもの、ずっとエアコンはつけたままだから部屋の中はすごく居心地がいいのだが・・・

コタローにはかわいそうな事をしていると思う。


でも、シンが外に出てしまっては困るので、窓を開ける訳にはいかないのだ。


コタローの方も、それをわかってくれているのか我が儘を言ったりはしない。

買い物に言っている間も、自分の代わりにシンの様子を見ていてくれている。

特にストレスが堪っている様子も見られないので、一安心だ。


そんな中、不安の種になっているのは・・・相変わらずシンの方。


怪我は順調によくなってきている。

コタローともそれなりに仲良くやっているようだ。


だが、自分には全く懐かない。


人間不信と言っても、こっちに敵意がない事を伝えれば、きっと懐いてくれるものだと思っていた。


その考えは甘かったみたいだ。


いや・・・当然と言えば当然なのかもしれない。

あんな仕打ちを受けたんだから、目の傷よりもっと深く・・・心に傷を負ってしまっているはずだ。


心の傷に効く薬と言えば・・・安易な考えだけど、きっと“愛情”とかそんなところ。


わかってはいるけど、近づくだけで逃げる。

もしくは、威嚇する。


こんな状態のシンに、どうやって愛情を注げばいいのか・・・

解決策も見つけられず、日々頭を悩ませていた。


シンは、そこが安全だと認めたのか・・・はたまたそこが気に入ったのか、

キャットタワーの頂上を陣地にしている。


ほぼ一日中そこから降りてくる事はない。

もちろん、寝る時もそこで寝ている。


たまに降りてきたとしても、自分のいる場所から一番遠い部屋の隅で、コタローとじゃれたりする程度だ。


「はぁ・・・」


気付かぬうちに出てしまう溜め息も、もう日課になりつつあった。



部屋の真ん中にゴロンと寝転がって天井を眺めていると


「ニャーン」


そんな様子を見兼ねたのか、コタローが顔を覗き込んだ。


「コタロー・・・」


だらしない声を出した自分の頬に、コタローは何度も何度も前足を押し当てた。

まるで、撫でてくれているかのように・・・


「ンニャァ」


「はは・・・そうだよね。自分が凹んでても仕方ないよね。」


「ニャー」


「ありがと。」


2人でじゃれあいながら寝転がっていた時、黒い影と共に、ドスッと言う鈍い痛みがお腹を直撃した。


でもそれは一瞬の事で・・・走り去った黒い影の方に目をやると、シンが「面白くない」と言いたげな顔をしてコッチを見ていた。


「シン・・・?」


それはすごく意外な事だった。


コタローと自分が一緒にいると、コタローを取られた気になるのか、シンはすごく不機嫌な顔になる。


そんな顔をするくらいなら、コッチにくればいい・・・と思うが、それが出来るのなら最初からこんな事にはならないのだろう。


だからこそ意外なのだ。


シンが、自分に近づいてくるなんて・・・

まぁ、明らかに好意のあるものではなかったけれども。


今までこんな事は一度もなかったから、ある意味「進展した」と言ってもいい気がする。


グダグダと悩んでいた事が、一瞬にして吹き飛んだ。


「シンー!」


「ニャー!」


逃げ惑うシンをコタローと2人で追いかけ、散々走り回った挙句

やっとの思いで摑まえた。


「フーッ!フーッ!」


爪を立てながらの威嚇。

前は、これをされると嫌われてる気がして近づけなかった。


だけど、今は違う。


どんなに爪を立てて引っ掻かれても、痛くはない。

どんなに毛を逆立てて威嚇されても、恐くはない。


シンだって、ずっと辛かったんだ。

それはきっと、自分が想像してるよりもはるかに恐かったんだと思う。


腕の中で暴れていたシンをギュッと抱きしめた。


「ごめんね、シン・・・・・・ごめん。」


今まで何度も謝ってきた。

けど、それを口に出して伝えたのは初めてだった。


「自分も・・・もちろんコタローも。シンの事、傷つけたりしないよ。だって、シンは・・・大事な家族だからね!」


「ニャァ♪」


その言葉を聞いて、急にシンが大人しくなった。

シンにつけられてしまった深い傷口から滲み出る血を、黙って見つめる。


そして、傷をペロッと舐めると・・・


「ニャァ」


と短く鳴いて、またキャットタワーへと戻っていった。


「シン・・・」


あぁ、そっか。

この子は誰よりも痛みを知っている。

身体の痛みも、心の痛みも・・・


本当は、すごく心の優しい子なんだ。


シンが見せてくれた新たな一面に、ちょっと泣きそうになった。




その夜、「一緒に寝よう」と声をかけたが、シンがキャットタワーから降りてくる事はなかった。


ガッカリはしたけど、焦る必要はない。

これからゆっくり時間をかけて、シンと仲良くなっていければいい。


「コタロー、寝るよー。」


「ニャー」


いつものようにコタローと布団に入ると、悩みから解放されたせいか、あっという間に眠りに堕ちていった。



どのくらい経ったのか・・・ふと違和感を感じて目が覚めた。


(脚が・・・動かない・・・)


金縛りにかかったかのように、身動きがとれなかった。

コタローは隣でぐっすり眠っている。


恐る恐る脚の方を見てみると・・・

脚の間で、その金縛りもどきの原因もスヤスヤと寝息をたてていた。


(もー、ツンデレなんだから!)


声に出すと、きっとツンデレ君は起きてしまうだろうから・・・

心の中でそう呟いて笑った。









―後日談―



最近わかってきた事がある。

それは、シンがかなり嫉妬深いと言う事。


自分にも少しずつ心を開いてくれるようになったのは嬉しいけど・・・

コタローと2人で遊んでいると、必ずコタローを威嚇する。


コタローは、誰とでも仲良くなるタイプだから独占欲があまりないらしい。

シンの威嚇も全く気にしていないみたいだ。

むしろ、わかっててやっているような・・・ちょっとSな面もあったりする。


シンは、自分の気に入った相手が他の人と仲良くしているのが気に食わない。

独占欲が強くて嫉妬深いタイプ。

だからと言って、コッチからシンをかまいに行くと嫌がる。

・・・やっぱりシンはツンデレなんだ。



「ニャァ♪」


「シャァァァ!」


我が家のサディストとツンデレは、今日も元気で仲良しです。



                                         ~End~