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瞳に映るもの
外ではまだ雷が鳴り響いていた。
だが、そんな音すらも子守唄代わりに腕の中でぐっすり眠っている彼女・・・
頭を撫でていると、さっきの光景が頭をよぎった。
俺は・・・どれだけハニーを不安にさせているのだろう・・・
攘夷志士と言う立場である以上、この先どんなに一緒に居てもハニーを安心させてやれる日がくる保証はない。
「ダーリン・・・」
そう呟いた声の弱々しさに、自問自答したくなる。
ハニーの・・・穂希(ほまれ)の隣にいるのは俺でいいのだろうか・・・
俺と一緒にいて、穂希は幸せになるのだろうか・・・
俺は穂希を幸せに出来るのだろうか・・・
問えば問うほどに、己の不甲斐なさに呆れるばかり。
「ハニー・・・俺は・・・ハニーに相応しい男になれているのだろうか・・・?」
聞いてるはずのない彼女への問いかけ。
むしろ、聞いているならばこんな事は聞けまい。
ただ、やり場のないこの気持ちを・・・どこにぶつけたらいいのか・・・
「・・・ダーリン?」
「・・・!お、起こしてしまったか。すまない。」
「ううん。違うの。でも・・・ダーリンの声が聞こえた気がして・・・」
「声・・・」
あの問いかけが聞こえていたのではないか・・・と、鼓動が跳ねる。
「きっとダーリンの夢見てたんだね!」
そう言って笑う彼女の顔に、少しだけホッとした。
「・・・そうだな。ははははは。」
「ダーリン・・・」
「どうした?」
「あの・・・さ・・・」
「何だ?言いたい事があるならはっきり言っていいのだぞ?」
「うん・・・あのね?私って・・・ダーリンに相応しい女なのかな?」
「ハニー・・・」
「だって、すぐ泣いちゃうし・・・これじゃあ、ほんとに侍の女房になんてなれないよね・・・」
それだけ俺が不安にさせている。
「ダーリンが忙しいのわかってても、すぐに会いたくなるし・・・」
それだけ俺が大事にしてやれていない。
「ダーリンがいないと・・・私・・・」
またしても泣かせてしまった彼女を、優しく・・・だが強く抱きしめる。
それしか出来ない自分がすごく情けなかった。
「ハニー・・・すまない。」
「・・・な・・・んで・・・?何で・・・ダーリンが謝るの・・・?」
「全て・・・俺の責任だ。」
「え・・・」
「ハニーが泣くのも・・・ハニーを寂しくさせてしまうのも・・・全部俺が悪い。」
「そんな事・・・!」
「俺は・・・本当にハニーの事を一番に考えているのだろうか・・・」
「・・・・・・」
「俺は・・・ハニーに相応しい男に・・・なれているのだろうか・・・?」
「ダーリン・・・」
まさかこの台詞を、もう一度口に出す事になるとは・・・
まして、ハニーを目の前にして・・・
「・・・ぷっ!あはは!」
溢れだしていた涙を拭いながら、笑い始めたハニー。
俺はただ、呆然とその笑顔を見つめる事しか出来なかった。
「あ、ごめんね?笑ったりして・・・」
「いや・・・」
「でもね、何か可笑しくって。」
「可笑しい・・・?」
「うん。だって、一緒にいられる時間は少ないのに、考えてる事はやっぱり同じなんだな・・・って思うと、嬉しいし可笑しいの。」
「・・・・・・」
「お互いを想い合う気持ちも、不安に思う気持ちも全部全部。ダーリンとは同じ気持ちなんだよね!」
言われてみれば・・・そういう事・・・なんだ。
ハニーの事が心から大好きで。
尊敬できるし、一緒に成長していきたいとも思う。
だが、それ故に己の未熟さばかり見えてきて・・・
つり合う人間なのか気になって。
一緒に居ていいのか・・・隣にいるのが自分でいいのか・・・
そんな風に考えてしまう。
「ふっ・・・ははははは!そうだったな。俺とハニーは、いつも同じ気持ちなんだよな。」
「うん!」
「俺が不安に思う時はハニーも不安で・・・俺が会いたくて堪らなくなった時はハニーも会いたくて堪らなくて・・・」
「そうそう!だって・・・」
「心が繋がっているから」
「心が繋がっているから」
重なった2人の声に、どちらからともなく笑い出す。
「ははははは!」
「あははは!」
「じゃあ、ハニー・・・今、俺が何を想っているか・・・わかるな?」
「・・・うん。」
照れて俯く彼女の頬に手を添えると、ゆっくりと顔を上げ、視線が俺を捕らえた。
その瞳は唇が触れる直前まで閉じられる事はなく。
再び開かれてからは、熱を帯びた身体が重なっても尚、俺を映し出していた。
彼女の瞳に映るものと、己の瞳に映るものは別の物かもしれない。
だが、この瞳で見える未来は・・・きっと同じ物になるだろう。
ずっと・・・2人一緒に生きていくのだから。
~完~