Christmas Night (前編)
12月25日。本日はクリスマスなり。
今日のこの日をどんなに心待ちにしていたことか。
久々に会える彼の顔を思い浮かべると・・・
頬も口元も自然と緩んでしまう。
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━
クリスマスのちょうど1ヶ月前・・・
段々と華やいできた街並みを歩きながら聞いてみた。
「今年のクリスマスは・・・一緒に過ごせそう?」
宇宙を駆け回り、日々忙しく働いている彼のことだから、半ば諦めモードで。
すると・・・
「すまんのう。今年はクリスマスにちょうど取引が入ってしまってのう・・・一緒に過ごすのは無理そうぜよ。」
予想通りの返事にガッカリしたものの、仕方ないと諦めるしか道はなく・・・
「そっか・・・クリスマスも仕事だなんて大変だね!休みの日にマッサージしてあげるから、頑張ってきて!」
「ほんとにすまんのう。その代わり、正月はずっとおまんと一緒に過ごすきに!」
「じゃあ、おせち料理でも作ろうかな?あ、初詣も一緒に行こうね!」
「そりゃ楽しみじゃのう!あはははは!おまんに似合う着物も選んでおくぜよ!」
「ほんとに!?楽しみにしてる!」
なんて明るく振舞って、その場をやり過ごすしかなかった。
(そりゃ、お正月に一緒に過ごせることはもちろん嬉しいけど・・・やっぱりクリスマスって大事な日じゃない?プレゼントなんてなくていい。ただ、一緒に過ごしたい・・・って、何考えてるんだ。いい年して、こんな乙女ちっくな事考えて・・・恥ずかし。)
そんな事を一人悶々と考えていた日のこと。
電話が鳴って・・・ディスプレイには“辰馬”の文字が。
「も、もしもし?」
慌てて出てみると・・・
「乃亜、まだ25日予定入れてないがか?」
「え・・・うん。友達もみんな予定入っちゃっててさ。一人でクリスマスパーティーでもしようかな?なんて考えてたとこ。」
「じゃあ、そのパーティーにわしも参加させてくれんかのう?」
「・・・え、だってその日仕事入ってるんじゃ・・・」
「1日ずれて、24日になったんじゃ。だから、25日は休みぜよ!」
「ほ、ほんとに・・・?」
「こげんこと嘘ついてどうするんじゃ!面白い奴じゃのう!あはははは!」
「っ・・・!」
突然の事に・・・言葉が詰まる。
「乃亜?どうかしたがか?」
「・・・んん。何でもないよ?急なことでびっくりしただけ。」
「ならいいんじゃが・・・」
「パーティーどこでしよっか?家くる?それとも外食?」
「おまんが好きな方選んでいいぜよ!」
「うーん・・・家で2人でご飯食べるのも捨てがたいけど・・・お正月は家で過ごすから、外食にしよっか!」
「じゃあ、わしがいいレストランでも予約しとくきに!」
「わかった!時間とか待ち合わせ場所は、また後でメールで。」
「おう。また連絡するぜよ。」
(うわ。どうしよう・・・嬉しすぎて泣けてきた・・・落ち着け落ち着け・・・・・・。でも、ほんとに嬉しい。ちょっと早いクリスマスプレゼントかな?)
なんて・・・辰馬が絡むとついつい乙女ちっくになってしまう自分が笑える。
(何着ていこうかな・・・折角だから、一式新調しちゃおうかな。髪型・・・どうしよ?美容院予約いれとこっかな・・・)
なんて・・・遠足前夜の小学生みたいに一人ソワソワして。
クリスマスの10日前に辰馬からメールが来た。
------------------------------------------ 夜景が見えるレストラン予約したぜよ。 18時にいつもの場所で待ち合わせでいいかのう? |
------------------------------------------ うん、大丈夫! 今からすっごい楽しみにしてる(´∀`) |
------------------------------------------ わしも楽しみじゃ! 考えただけで、仕事に身が入らんぜよ!
|
------------------------------------------ それはいつもの事でしょ?(笑) 陸奥に迷惑かけちゃダメだからね! じゃあ、仕事頑張って!
|
そんなやりとりをして・・・
ほんとに一緒に過ごせるんだな・・・って改めて実感した。
(クリスマスプレゼント何買おうかな・・・辰馬は欲しい物とか全部自分で買っちゃうからなぁ。お金で買えないものプレゼントした方が喜ぶかな?手編みのマフラーとか・・・いや、ないない。中学生じゃあるまいし・・・
じゃあ、自分・・・とか?リボン付けて、「 ア ・ タ ・ シ」みたいな・・・いや、ないないない。恥ずかしすぎる。ダメ。却下。
ってか、何考えてんの自分!周りが聞いたら絶対ヒクよこれ!むしろ、自分もヒいた!まさか自分がこんな事考えるなんて・・・乙女ちっく通り越して、痛々しいよ!)
自分の脱線した思考回路を軌道修正し、落ち着きを取り戻す。
(手作りでプレゼントできる物・・・あ!あれにしよう!)
思いついたのは手作りのアクセサリー。
(指輪は何か恥ずかしいから・・・ネックレスにでもしようかな。)
辰馬の好きな船をモチーフにデザインを考えることにした。
(気付かれないように、小さくお互いのイニシャル入れてみたりして・・・ほんと乙女ちっく。でも・・・クリスマスくらいいいよね?)
そんな事を考えてる一時もすごく楽しくて・・・にやけた顔でプレゼントの準備をしている自分だった。
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━
そして今に至る訳だけど・・・
今日のために用意したワンピースとコート。
ブーツとバッグは前に辰馬が似合うからって買ってくれた物を選んだ。
髪型も美容院でセットしてもらったし。
メイクももちろんばっちり。
辰馬へのクリスマスプレゼントも持った。
余った粘土で作ったお揃いのネックレスもつけた。
(うん、準備万端!)
朝から緩みっぱなしの顔を引き締め、家を出る。
待ち合わせ場所までは、電車で30分ほど。
電車に乗ってる間も、考えるのは辰馬のことばかり。
(会ったら何か言ってくれるかな?)
なんて考えてたら、また顔がにやけてきて・・・
窓に映った自分の顔を見て、慌てて俯いた。
駅に着き、待ち合わせ場所まで歩く。
彩られた街並みを見ているだけでも楽しい気分になってくる。
すれ違う人達も、みんな楽しそうで・・・
やっぱり、クリスマスっていい日だな・・・と思った。
自分を追い抜いていく人影。
ふと目に付いた紙袋の中には、リボンのかかった小さな箱が見えた。
(あ・・・指輪かな?)
たくさんの幸せオーラに包まれて、自分もどんどん幸せになる。
待ち合わせ場所に着き、辺りを見渡す。
辰馬はまだ来てないみたいだ。
時計を見ると、17時35分。
(ちょっと早く着きすぎたな・・・)
笑いながら天を見上げる。
目の前には大きなツリーがライトアップされ、クリスマスソングが流れている。
(綺麗だなぁ・・・レストランから見る夜景も、きっと綺麗なんだろうなぁ・・・)
たったの25分がものすごく長い長い時間のように感じられた。
約束の18時。
だが・・・辰馬はまだ来ない。
普段からあまり時間ぴったりに来る人間じゃないのはわかってるから、さほど気にもしなかった。
ただ、早く来て欲しい・・・それだけを思って。
18時10分。
(遅いなぁ。もうそろそろ来てもいい頃だと思うんだけど・・・)
18時20分。
(ここまで遅れる時は、いつも連絡くれるはずなんだけど・・・もしかして寝坊じゃないよね?)
18時30分。
(ちょっと電話してみよ・・・・・・あれ?出ない。どうしたんだろ?)
それから10分経っても20分経っても辰馬が現れることはなく・・・
連絡すら取れない状態だった。
(何かあったのかな・・・?急な仕事とか・・・まさか、事故なんて事はないよね!?)
段々と不安が広がっていく。
約束の時間から1時間半が過ぎ・・・
待ち合わせをしている人の数も少なくなってきた。
来た時の気分はどこへやら・・・
キラキラ輝くツリーや楽しげなクリスマスソングでさえも、自分の気持ちを晴らすことは出来なかった。
(ほんとに・・・どうしちゃったんだろ・・・?辰馬・・・)
気がつけば約束の時間から3時間が経過していた。
周りにはツリーを見に来たカップルが何組か・・・
当然、待ち合わせをしている人なんて1人もいない。
(今日はもう会えないのかな・・・?来てくれないのかな・・・?)
天を見上げる目が霞んでいく。
(もう1時間だけ待って・・・来なかったら・・・帰ろう・・・)
いつの間にか・・・空からは、たくさんの雪が降り注いでいた。
辺りは一面の銀世界で・・・素敵なホワイトクリスマスが演出されている。
ツリーを見に来ていたカップルたちも1組、2組と減っていき・・・ここに居るのは自分だけ。
何だか自分1人だけこの世界に取り残されてしまったかのような錯覚に陥る。
時計を見ると22:00を回ったところだった。
(やっぱり・・・今日はもう来ないんだ・・・帰ろう・・・風邪引いちゃう・・・)
駅までの道を引き返す。
人影もなく、静まり返った道。
イルミネーションの明かりが、余計に寂しさを誘う。
だから、顔を上げたくなくて・・・ただ足元だけを見て駅に向かった。
すると突然・・・
自分の目の前で立ち止まっている靴が視界に入る。
でも、そんな事を気にする余裕もなくて・・・
当然、その人とぶつかってしまう。
・・・と同時に支えられて・・・と言うより抱きしめられていた。
(何・・・?)
自分がどういう状態であるのか理解出来ていなかった自分は、されるがままに身を任せることしか出来なかった。
「お姉さん、こんな時間にどうしたの?」
聞き覚えのある声、特徴のある喋り方。
ゆっくり顔を上げると・・・
うん、やっぱり見覚えのある顔。
「ぎ・・・んちゃ・・・ん・・・」
「こんな時間に1人でウロついてっと危ねぇぜ?」
「ん・・・大丈夫。今日はクリスマスだから、こんな時間に出歩いてる人少ないよ!あはは・・・」
「お前、今日は辰・・・」
「銀ちゃんこそ、こんな時間に出歩いて・・・何?ナンパでもするつもりだった?」
「・・・まぁ、そんなとこだ。これから僕の家でいちご牛乳でも飲みませんか?」
「ぶっ!そんなナンパの仕方じゃ、誰もついてかないよ?」
「いいんだよ!俺ァ俺のやり方でやるから。・・・ほら、寒いんだからさっさと行くぞ!」
「銀ちゃ・・・」
「今日は神楽いねぇんだ。だから・・・何でもヤリ放題だぜ?」
「・・・あはは!神楽がいないのは残念だけど・・・行こうかな。」
寂しい気持ちを誤魔化したくて・・・
何より、銀ちゃんが事情も聞かずに、場を盛り上げてくれたことが嬉しくて・・・
自分は万事屋へ行くことにした。
万事屋に着くと、ほんとに神楽はいないみたいだった。
もちろん、定春も。
(新八の家で、パーティーでもしてるのかな?)
なんて思いながら椅子に座っていると、銀ちゃんがタオルとホットココアを持ってきてくれた。
「あ・・・ありがとう。」
「今、風呂用意してっから、それ飲んで温まっとけ。髪も拭かねぇと風邪引くぜ。」
「うん。・・・何か銀ちゃん・・・お母さんみたいだね?」
「オイオイ、せめて優しい旦那様とか言ってくんねぇ?性別変わっちまってんじゃねぇか。」
「だって、ほんとにそう思ったんだもん。」
「そうかい。じゃ、乃亜はお母さんと一緒にお風呂入りましょうね~。」
「いい加減子離れしてよ、お母さん!」
「じゃあ・・・俺と一緒に入ろうぜ、乃亜?」
「・・・ぶっ!何言ってんの、冗談ばっかり!」
「冗談じゃ・・・なかったら?」
「絶対冗談だもん。銀ちゃんそんな軽い事言う人じゃないし。」
「わかんねぇぜ?男は獣だからよ。」
「いーや、絶対冗談!」
「・・・はぁ・・・お前には負けたよ。風邪引く前に入って来い。着替え用意しといてやるから。」
「ありがとう、銀時ママ!」
そう言って、お風呂場へ急いだ。
だって・・・急にあんなこと言う銀ちゃんにドキドキしたから。
(あんな笑顔・・・誰が見たって惚れちゃうじゃん・・・!)
鏡に移った自分の顔があまりにも真っ赤で、銀ちゃんに心の中がバレたんじゃないかと心配になる。
(だ・・・大丈夫だよね?あぁぁぁ・・・今日は感情の起伏が激しい・・・心臓に悪いよ・・・)
そんな事を考えていると、また急に切なさがこみ上げてきた。
(・・・辰馬、今何してるの?会いたい・・・声が聞きたいよ・・・)
ずっとずっと我慢していた涙が、一気に溢れ出してくる。
(ダメだ・・・ここで泣いたら銀ちゃんに聞こえちゃう・・・お風呂入ろ・・・)
急いでお湯に浸かり、そこでおもいっきり・・・泣いた。
どのくらいそうしていたのか・・・
やっと涙もおさまり、お風呂からあがることにした。
(ちょっと浸かりすぎたかな・・・のぼせそ・・・)
泣いたら少しすっきりして、さっきより落ち着いた。
でも、相変わらず連絡の取れない辰馬のことは心配だった・・・
用意してもらったタオルで身体を拭き、着替えようとすると・・・
(あれ?着替えがない・・・しかも、さっきまで着てた服もない・・・)
探していると・・・
(コンコン)
ノックする音が聞こえる。
慌てて身体にタオルを巻いて・・・
ドアの前で返事をする。
「な、何?」
「あ~、悪ィ。着替え置いとくの忘れちまってよ。ついでに、お前の服は洗濯しといたからよォ。」
「あ、ありがとう。じゃあ・・・着替え、そこ置いといて。」
「おう。」
銀ちゃんがドアの前から立ち去ったことを確認して、ドアを開ける。
着替えを取り、後ろ手でドアを閉めようとすると・・・
(ドンッ)
何かがドアに挟まった。
「ん・・・?」
振り返ろうとしたその瞬間、銀ちゃんに後ろから抱きしめられていた。
事態が把握できず、立ち尽くす。
(え・・・何・・・?何で・・・え?銀ちゃん?)
「俺なら・・・お前にそんな顔させたりしねぇぜ?」
「っ・・・!」
「俺なら・・・ずっとお前のそばにいてやれるぜ?」
「銀・・・ちゃん・・・?」
「俺じゃ・・・ダメか・・・?」
急な展開に、思考も鼓動もついていかない。
頭が真っ白で、ただ脈打つ鼓動だけが感じとれた。
数分のフリーズ後・・・
ようやくハッと我に返る。
「ぎ、銀ちゃん・・・とりあえず、服着たいんだけど・・・」
「いいよ、着なくて。そのままで。」
「いや、よくないからっ!」
「むしろ、そのタオルも邪魔だなァ。」
「いやいやいやいや・・・ちょ、ほんと・・・うん。いい子だから離して・・・ね?」
「銀さん、イイコじゃありませ~ん。」
そんなやり取りをしていた時・・・
(ダンッ!)
大きな音とともに玄関のドアが開いたかと思うと、人が飛び込んできた。
(何・・・!?)
そう思った次の瞬間には、後ろにいたはずの銀ちゃんがいなくなっていた。
(え・・・)
見ると、床に仰向けに倒れている。
「ぎ、銀ちゃん!?」
慌てて駆け寄り、飛び込んできた人を見ると・・・
「た・・・つま・・・?」
「銀時!おまん、何しゆうがか!」
真剣な表情で声を荒げる辰馬。
(こんな辰馬初めて見た・・・)
「ってぇなァ・・・ノックもなしに入ってきて、邪魔すんじゃねぇよ。」
「おまん、わしのモンに手ェば出して・・・ただで済むと思うちょるがか?」
「ちょ、辰馬!何言ってんの?何も・・・」
「はっ・・・そんな大事なモンほったらかしてた奴がよく言うぜ!」
「っっ!・・・とにかく乃亜はわしのモンじゃき。銀時だろうが譲る気はないぜよ。」
「俺だってお前みたいなバカに、コイツ任せてらんねぇよ。」
「やんのか?」
「上等だ。」
「2人とも待ってよ!落ち着いて!」
(え・・・何?何でこんなことになってんの?てか・・・何で辰馬がここにいんの?)
とりあえず今にも掴みかかりそうな2人の間に入り、今の状況を整理する。
(えっと・・・銀ちゃんに抱きしめられたと思ったら、辰馬が飛び込んできて・・・気が付いたら2人が言い争い始めてて・・・・・・あ・・・そう言えば、服着てないや・・・)
睨み合っている2人に、告げる。
「あ・・・のさ?とりあえず服着ていい?」
「・・・・・・ぷっ」
「・・・・・・ぷっ」
「ちょ、何で笑うの?いつまでもこんな格好でいれないじゃん!」
借りた服に着替え、再び廊下に戻る。
さっきまでの険悪な雰囲気はなくなっていた。
「・・・で、何で辰馬がここにいるの?」
「金時から電話があってのう。」
「電話・・・?」
「“乃亜は俺が貰う”なんて言うもんじゃき、急いで飛んできたぜよ!」
「・・・銀ちゃん?」
「乃亜・・・遅れてすまんかったのう・・・さ、行くぜよ!」
「え・・・行くって・・・」
「これから2人でクリスマスパーティーじゃ!」
その言葉を聞き、自然に笑みがこぼれた。
「でも・・・銀ちゃんが・・・」
「良かったじゃねぇか。楽しんでこいよ?」
そう言って微笑む銀ちゃんの顔は、すっごく優しかった。
「銀ちゃん・・・」
「お前にこんな顔させられんのも、このバカだけだもんな。」
辰馬に聞こえないよう耳元でそう言って、頭を撫でてくれる。
「・・・ありがとう。銀ちゃん・・・」
「ほら、乃亜!早くするぜよ!」
辰馬に急かされ、万事屋を後にした。
To be next entry・・・
後半はコチラ から。