皆様こんにちは。

今回は司法試験平成28年度 民法です。

民法改正前の問題なので、ちょっと改正法と旧法がごちゃ混ぜになっている箇所があるかもしれませんが、温かい目で見てください。

いつもの如く、参考にしていただくのは構いませんが、自己責任で宜しくお願い致します。

 

第1.設問1
1.小問(1)
(1) 請求の根拠
 EはA及びDに対し、甲土地所有権移転登記手続債務を相続(民法896条、以下法名略)したとして、当該債務に基づいて甲土地の所有権移転登記手続を請求することが考えられる。
(2) 当否
ア. AはCの親権者(818条1項)として有する代理権(828条)に基づき、Cを代理して甲土地を目的物とする売買契約をEとの間で締結している。そして、この売買契約に基づき甲土地所有権移転登記手続債務をCが負い、Cの死亡により相続が開始する(882条)から、相続人であるA(889条1項1号)及びD(890条)が共同してこの債務を承継することになる(896条本文、899条)
イ. もっとも、Aの上記代理行為が利益相反に当たるとすれば無権代理として無効になる(826条1項、113条1項)ところ、利益相反行為に当たるかどうかは取引の安全確保の観点から、行為自体の外形から客観的に判断する。
 本件では売買代金をAの借金に充当する意思を有していたものの、行為の外形自体は客観的に見てAとCの間で利益が相反するものはいえず、代理行為は利益相反に当たらない。したがって、原則として有効と言える。
ウ. 他方、親権者が自己又は第三者の利益のみを図ることを目的とするなど親権者に広範な代理権を法が与えた趣旨を逸脱していると見られる特段の事情があれば、代理権の濫用(107条)として相手方が当該目的を知り又は知ることができたときに限り無効になる。
 本件においてAは自らの遊興を原因とする1000万円の借金の返済に窮しており、甲土地を売却して得た代金をその借金の返済に充てるつもりでCを代理していたのであり、自己の利益のみを図ることを目的としている。そして、EはそのAの意図を売買契約締結時において知っていた。
 したがって、本件におけるAの代理行為は代理権濫用として無効であり、その効果はCに帰属しない。
エ. よって、Cが売買契約に基づく債務を負わない以上、相続人であるA・Dも債務を負わず、上記履行請求は認められない。
オ. なお、Aは代理権濫用を自ら行っているから、信義則上当然に追認(119条ただし書)が擬制され、Aの持分の限度で請求が認められるとも思える。しかし、このように解すると、他の共同相続人であるDが複雑な法律関係を強制されることになり、意にそぐわないEとの共有関係を強制されて不当な不利益を被らされることになるから妥当でない。
 したがって、Eの請求はAの持分の限度でも認められない。
2.小問(2)
(1) 請求の根拠及び内容
 Dは乙土地の共有持分権に基づき、保存行為(252条ただし書)として物権的返還請求としての丙建物収去土地明渡請求をすることが考えられる。
(2) 当否
ア. 上記の通り、甲土地を目的物とする売買契約は107条により無効であり、乙土地を目的物とする売買契約も同様に107条により無効となる。したがって、乙土地の所有権はE・Fに移転せず、Cを共同相続したDは3分の2の持分権の限度で(900条2号)、乙土地の共有持分権を有する。
イ. Fは丙建物を所有し乙土地を占有している。そして、FはEから乙土地を買い受けているものの、Eが乙土地所有権をCから取得していないから乙土地の所有権はFに移転しない。また、上記の通り代理権濫用者であるAの持分の限度で追認が擬制され持分権が当然に移転すると解することもできないから、Aの持分権の限度であっても乙土地の共有持分権を取得しない。
 したがって、Fは乙土地を不法に占有するものであって、上記物権的返還請求権としての丙建物収去土地明渡請求は認められる。
ウ. なお、Eへの所有権移転の外観が除去されないことによりFがEから乙土地を買い受けているものの、DはAに対しCの遺産について尋ねて遺産を処理しようとしているにもかかわらず、Aの不当な拒否により遺産が処理できなかったのであるから、上記Aの外観の存在につきDに帰責性があるとは言えず、94条2項の類推も認められない。
第2.設問2
1.小問(1)
(1) 請求の根拠及び内容
 MはEに対し、平成26年4月1日付消費貸借契約に基づく貸金返還請求として500万円とそれに対する利息や支払済みに至るまでの遅延損害金の支払を請求するものと考えられる。
(2) 当否
ア. EはHとの間で平成26年4月1日に金銭消費貸借契約を締結しており貸金債権が発生している。そして、MはHとの間で平成26年8月1日に当該貸金債権を買い受けており、当該債権譲渡につき債務者Eから承諾を得ているから債務者対抗要件(467条1項)も備えている。
イ. もっとも、EとHの間の上記消費貸借契約はEが賭博に使うつもりであることを打ち明けられた上で締結されている。そして、動機に不法がある契約については、取引安全保護の観点から、動機が表示されて法律行為の基礎となっている場合に限り90条違反として無効になると解する。
 本件では賭博に使うという公序良俗に反する動機があるところ、上記のようにEはHにこれを打ち明けた上でHはこれを了承して500万円を貸し付けているのであり、不法な動機が表示されて法律行為の内容となっている。
 したがって、EとHの上記消費貸借契約は90条により無効である。
ウ. そして、消費貸借契約が公序良俗違反により無効であるという事情はHM間の債権譲渡の目的物たる貸金債権の発生時から存在する瑕疵であり、「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」に当たるから、Eはかかる事実をMに対しても主張することができ(468条1項)、Mは上記貸金債権を取得することができない。
エ, よってMのEに対する請求は認められない。
2.小問(2)
(1) 請求の根拠及び内容
 MはEに対し703条、704条に基づいて不当利得返還請求として500万円とそれに対する利息や支払済みに至るまでの遅延損害金の支払を請求することが考えられる。
(2) 当否
ア. Eは公序良俗違反につき悪意であるから、704条に従って借り受けた500万円及びそれに対する利息及び支払済みに至るまでの遅延損害金の支払を請求することとなる。
イ. もっとも、HのEに対する貸金の交付は公序良俗違反であるから、不法原因給付(708条本文)として、Mは不当利得返還請求ができないと言えないか。
 708条本文の趣旨は、不法な給付をした者に対して法が回復の助力をしないところにある。そうすると同条にいう「給付をした者」とは不法に関与したものをいい、不法であることを知らなかった者についてはこれに当たらないと解する。
 本件においてMはHの「Eの事業のための融資金債権である」との説明を信じてHから債権譲渡を受けたのであり、EとHの間の金銭消費貸借契約が不法な動機に基づくものであることを知らないから、不法に関与したとは言えない。
 したがって、Mは「給付をした者」に当たらず、708条本文により請求は妨げられない。
 よって、MのEに対する不当利得返還請求は認められる。
3.小問(3)
(1) 請求の根拠
 LはEに対し、求償権に基づき(459条1項、650条1項)、584万円の支払を請求することが考えられる。
(2) 当否
ア. 本件においてLはEの委託を受けてKとの間で連帯保証契約を締結しており、その契約は書面に基づいて締結されている。(446条2項) そして、平成26年4月15日付でEK間の消費貸借契約が締結されている。
イ. もっとも、本件ではEK間で実際に貸金が交付されていない。そして、消費貸借契約は要物契約(587条)であり、例外的に諾成的消費貸借契約も認められるが、貸金が交付されて実際に利用されなければ消費貸借契約は無意味なものとなるから、諾成的消費貸借契約の法的性質は貸金の交付がないことを解除条件とする消費貸借契約であると解する。
 したがって、EK間で平成26年4月15日に締結された消費貸借契約も貸金が交付されることを解除条件とした諾成的消費貸借契約であり、平成26年5月31日に貸金が交付されなかったことにより解除条件が成就して本件消費貸借契約は効力を失ったと解する。そして、これにより主債務が消滅するから付従性により連帯保証債務も消滅したといえ、Lの弁済による求償権は発生しない。
 したがって、求償権に基づく上記請求は認められない。
ウ. もっとも、Lは主債務者であるEの発言により履行に及んでおり過失なく損害を被ったと言えるから、650条3項に基づいて損害賠償請求として584万円の支払を請求できる。
以上