お久しぶりです

 

今回は平成23年度司法試験の会社法の答案を書きました。

 

 

 

 

 

弊学の授業課題として書いたものなのですが、会社法の教員は割と司法試験に対して現実的な目線で向き合っておられる方で、「一般的な受験生が書けるのはせいぜい3500字程度が限界だから、3500字以内で書いて提出するように」との指示でした。

したがって、3500字以内になるよう敢えて記述を薄くしたり論点を落としたりしている箇所が多くあります。

この答案を参考にされる方は、その点をご留意の上参考にされてください。

 

第1.設問①

1.取得の効力

(1) 本件自己株式取得(以下、本件取得)は、「特定の株主」(会社法160条1項、以下法名略)たるBからの自己株式取得であるが、市場価格を25%超えており161条の適用がない。また、BはAから相続により甲社株式を取得している(民法882条、887条1項、896条本文)ところ、甲社は公開会社(2条5号)のため162条1号も適用されない。

 そうすると、甲社は売主追加請求の通知(160条2項・3項)を行う義務があった。しかし、甲社は同通知を怠っているから本件取得には160条2項違反の瑕疵がある。

(2) また、株式会社が自己株式を取得するときは株主総会の特別決議を要する(156条1項、160条1項、309条2項2号)ところ、Bは「特定の株主」に当たり、上記決議において議決権行使できない。(160条4項)

 それにもかかわらず、平成22年6月29日の甲社株主総会(以下、本件総会)で、Bは本件取得に関する第1号議案において議決権を行使しており160条4項違反の瑕疵が認められる。

(3) さらに、本件取得に当たっては取得価格が分配可能額を超えることができない(157条1項、461条1項3号)ところ、本件取得時の甲社の分配可能額は正確な貸借対照表(資料3)によれば5億円であるにもかかわらずBに25億円の対価を支払っており、本件取得は財源規制違反(461条1項3号)の瑕疵も認められる。

(4)ア. これらの瑕疵は本件取得の無効事由となるか。

イ. まず、160条2項違反及び160条4項違反の点は本件取得の要件である「株主総会の決議」(156条1項、160条1項)の「決議の方法」の「法令違反」(831条1項1号)である。そして、これらの事実によって株主総会決議が取り消されれば、本件取得の要件たる株主総会決議を欠くことになり、そのことが本件取得の無効事由になるとも思える。

 しかし、本件総会は平成22年6月29日に開催されており、現時点では既に出訴期間の「3箇月」(831条1項柱書)を徒過しているから、もはや本件総会の取消しは争うことができない。

したがって、本件総会は取り消されず、これらの点は本件取得の無効事由とならない。

ウ.財源規制違反の趣旨が会社財産の不当な流出防止及び会社の財政的基礎の保護にあることや自己株式取得を内容とする総会決議は決議内容の法令違反として無効(830条2項)であることに照らせば、財源規制違反の自己株式の取得は無効と解するのが素直である。したがって、財源規制違反の点は本件取得の無効事由となる。

(4) なお、自己株式取得規制の趣旨は会社財産の不当な流出防止及び会社や債権者、株主の利益保護にあるから、会社が無効主張した場合に限り無効になると解する。

(5) よって、甲社が無効主張した場合に限り本件取得は無効となる。

2.甲社とBの法律関係

 上述の通り、本件取得は461条1項3号に違反しており、同取得により「交付を受けた」Bは甲社に25億円の返還義務を負う。(462条1項柱書)。ここで、Bは甲社が取得した株式が不当利得(民法703条)に当たり、25億円の返還と同時履行の関係(民法533条)にあると主張することも考えられる。しかし、462条1項は不当利得返還請求における同時履行の抗弁権の特則であり、株主は先履行義務を負うから、Bは25億円の返還を拒めない。

第2.設問②

1.本件自己株式処分(以下、本件処分)の瑕疵

(1) 本件処分は市場価格の80%という「特に有利な金額」で処分されていることから、かかる金額での募集を「必要とする理由」を取締役が説明しなければならない。(199条3項) もっとも、甲社「取締役」のCはその理由を説明しており、資料1にも理由が記載されているからこの点につき瑕疵は認められない。

(2) 次に、本件ではDから取得価格を市場価格の80%と定めた理由について「説明を求められ」ているところ、Cは企業秘密に関わるため根拠を示すことはできないと述べただけで、株主が第2号議案を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲の説明をしていない。そこで、かかる事実が説明義務(314条本文)違反に当たらないかにつき、「正当な理由」(同条ただし書、会社法施行規則(以下規則)71条各号)の有無が問題となる。

 本件においてCは企業秘密に関わると述べているが、資本提携を行うに当たっていかなる金額で株式の処分を行うのが妥当かは株主が判断すべき事項であり、売却価格の説明は甲社その他の者の権利を侵害すること(規則71条2号)に当たらない。また、同条1号3号4号に当たる事由も認められない。

 したがって、Cが取得価格の根拠を示さなかったことは314条本文に違反する。

(3) また、第2号議案で乙社が議決権を行使したことが831条1項3号に該当しないかが問題となる。

 乙社は、甲社の株主たる地位を離れて、「特に有利な金額」で行われる本件処分の相手方という個人的な利害関係を有しており「特別の利害関係を有する」といえる。もっとも、本件ではBの株式が乙社に移転するだけであり、他の株主が著しい不利益を受けるものではないので「著しく不当な決議」がされたとはいえない。

 したがって、第2号議案で乙社が議決権行使したことは831条1項1号に該当しない。

(4) さらに、前述の通り本件取得は無効であるから、本件処分の対象たる株式が存在しないことも瑕疵といえる。

2.本件処分の効力

(1) これらの瑕疵が本件処分の無効事由となるか。

 無効事由につき明文なく問題となるところ、処分された株式は転々流通し多数の利害関係人を生じさせ得るから、重大な瑕疵がある場合にのみ無効となる。

(2) まず、314条本文違反の点は、本件処分の要件である株主総会の特別決議(199条2項、309条2項5号)の「決議の方法」の法令違反(831条1項1号)として本件総会の取消事由となる。しかし、前述の通り本件総会の取消しの訴えについては出訴期間を徒過しており、もはやその取消しを争うことはできない。したがって、本件処分の要件たる株主総会の特別決議を欠くということは生じず、かかる点は本件処分の効力の無効事由とならない。

(3) 他方、本件処分の対象たる株式が存在しない点は、存在しないものを処分することはできないからその瑕疵は重大であり無効事由を構成する。

(4) よって、本件処分は新株発行無効の訴え(828条1項3号)が提起されれば無効となる。

第3.設問③

1.本件取得に関する責任

(1)ア.Cは財源規制違反の本件取得につきBとの交渉を担当した「業務執行者」である。そこで、462条1項柱書に基づいてBと連帯して25億円を甲社に支払う責任を負わないか。

イ. 「その職務を行うについて注意を怠らなかった」(462条2項)とは財源規制違反行為を行うにつき過失がないことをいう。

 Cが本件取得を行うにつき参照した資料②の貸借対照表は甲社西日本事業部が架空売り上げを計上した粉飾決算によるものであるところ、当該架空売り上げの計上は会計の専門家である会計監査人でも見抜けない巧妙な手口でなされているから、Cが見抜けなかったとしてもやむを得ず、財源規制に反する本件取得につきCに過失があるとは言えない。

ウ. したがって、Cは「その職務を行うについて注意を怠らなかった」といえ、462条1項柱書の責任を負わない。

(2) また、「その職務を行うについて注意を怠らなかった」といえる以上、462条1項2号の責任も負わない。

(3) そして、粉飾決算が見抜けないものである以上、欠損が生じることについて知らなかったことの過失も認められないから、465条1項柱書の「職務を行うについて注意を怠らなかった」にも当たり、同項3号の責任も負わない。

(4) 423条1項の任務懈怠責任につき、甲社取締役であり「役員等」に当たるCは、財源規制違反行為という具体的法令に反しているから任務懈怠も認められ、Bに支払った25億円という損害もある。もっとも、前述の通り、本件取得の前提とされた資料②はCに見抜けない粉飾決算を含むものであるからCに帰責事由がない。したがって、Cは任務懈怠責任も負わない。

(5) よってCは本件取得に関して何ら責任を負わない。

2.本件処分に関する責任

 本件処分についてCに任務懈怠責任(423条1項)の責任追及が考えられるも、前述の通り本件処分が無効である以上甲社に損害が生じないからCは任務懈怠責任を負わない。

 よって、Cは本件処分に関しても何ら責任を負わない。

以上