平成29年度司法試験の行政法です。

例によって、いろいろ突っ込みどころがあるかと思いますが、お手柔らかにツッコミを入れていただければと思います。

 

第1.設問1
1.小問(1)
(1) XはY市に対して、本件フェンスの除却命令(法71条1項1号)の義務付けを求める非申請型義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項1号、37条の2第1項。以下法名略)を提起することが考えられる。
(2)ア. 非申請型義務付け訴訟における訴訟要件は①「処分」性(3条6項1号)②処分の「一定」性(3条6項1号)③原告適格(37条の2第3項・4項、9条2項)④訴えの利益⑤「重大な損害が生ずるおそれ」(37条の2第1項)⑥補充性(37条の2第1項)⑦被告適格(38条1項、11条1項1号)⑧管轄(38条1項、12条)である。
イ. 本件フェンスの除却命令は、公権力の主体たるY市が法71条1項1号に基づいて私人であるAに対して一方的に本件フェンスを除却するという義務を負わせるものであり法的効果も認められる。したがって、本件フェンスの除却命令には「処分」性は認められる。また、裁判所にとって本件訴訟の審理判断の対象が本件フェンスの除却命令であることは特定されているといえるから処分の一定性も認められる。(①②充足)
ウ. (ア) 原告適格は「法律上の利益を有する者」、即ち、処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に認められる。そして、法律上保護された利益には処分の根拠法規が当該具体的利益を個々人の個別的利益として保護している場合を含む。そして、Xらはフェンスの除却命令の名宛人には当たらないから37条の2第4項が準用する9条2項により判断する。
(イ) 本件フェンス除却命令は法71条1項柱書によるものであるところ、法71条1項柱書そのものは同項各号に該当する者に対して許可や承認の取消しであったり、必要な措置命令を課すことができることしか規定していない。しかし、同項1号によれば「この法律・・・に違反している者」に対して同項柱書の命令をすることができるものとされているところ、法43条2号は「交通に支障を及ぼす虞のある行為」を禁止しており、これに反すれば法71条1項柱書によって必要な措置命令を下すことができるのであるから法71条1項柱書は交通の安全を保護する趣旨を含んでいるといえる。
 また、法2条は「道路」を「交通の用に供する」とし、法10条も市町村道について「一般交通のように供する必要がなくなった」と市町村長が判断すれば廃止することができるとしている。したがって、法71条1項は道路の交通安全を保護する趣旨を含んでいるといえる。
 そして、道路交通の安全は広く一般的な公益として保護される必要があるが、特定の道路の交通の安全については当該道路の周辺住民が最も利用頻度も高く、それゆえ安全が確保されないことにより生じる不利益をより直接的に被る。そこで、法71条1項は措置命令の対象とされる特定の道路の周辺住民の交通の安全を個々人の個別的利益として特に保護する趣旨を含んでいると解する。
(ウ) 本件において、X1は本件道路に隣接する本件土地に居住しており、本件フェンスが存在することにより本件道路が安全に通行できなくなると災害時の避難場所であるC小学校へ安全に移動できなくなる地位にある。また、X2は本件道路を使用してC小学校に通う者であるところ、本件道路が通行できなければ自動車が通行する危険なB道路を通行しなければならないことになり、交通事故の危険に晒される。そのため、X1及びX2らは本件道路の交通の安全につき不利益を直接的に被っているから、法律上保護された利益を侵害されている者として「法律上の利益を有する者」に当たる。したがって、Xらには原告適格が認められる。(③充足)
エ. そして、本件除却命令が認められればXらは本件道路を安全に通行できるようになるから訴えの利益もある。(④充足)
オ.「重大な損害が生ずるおそれ」につき、本件フェンスが除却されなければ、災害発生時にX1は避難場所へ避難ができず生命や身体の安全に危険が生ずる。また、X2も自動車が通行する危険なB道路を通ってC小学校へ通学しなければならず、生命や身体の安全に危険が生ずる。生命や身体は何物にも代えがたい法益であり、これに対する危険が生ずることは「重大な損害が生ずるおそれ」があるといえる。(⑤充足)
カ. 非申請型義務付け訴訟における補充性は特別の権利救済手段が法定されているような場合や不利益処分について取消訴訟による救済が可能な場合をいうところ、本件にはかかる事情は認められず、補充性も充たす(⑥充足)
キ. よって、Y市を被告として(⑦充足)、Y市を管轄する地方裁判所に訴えを提起(⑧充足)すれば、本件フェンスの除却命令を義務づける非申請型義務付け訴訟は認められる。
2.小問(2)
(1) 本件フェンスの除却命令を義務付ける非申請型義務付け訴訟の中で、XらはY市長が本件フェンスの除却命令をしなかったことが裁量権の逸脱濫用に当たり違法(30条)であることを主張する。
(2) 法71条1項柱書は必要な措置命令を「することができる」としており、道路管理者に効果裁量を認めるような規定をしている。また、法43条2号は「交通に支障を及ぼす虞のある行為」と抽象的に規定しているし、具体的にどのような場合であればこれに当たるのかの判断は専門技術的な判断を要するから、これに当たるかどうかの判断は道路管理者の要件裁量が認められるといえる。
ここで、本件フェンスは保育園の園児が道路に飛び出し交通事故が生じることを防止するために設けられたものであり、フェンスを除却することは周辺住民の交通の安全が図られる一方で保育園の園児の生命身体に対する安全が確保されない事態を招くからY市長の裁量は狭くなるとも思える。しかし、園児の安全は本来保育園が確保するものであり、園児を外に出すときは保育園の敷地と本件道路との境界に職員を配置するなどで対応できることから、保育園の園児の安全を考慮する必要はなく、Y市長には広範な裁量が認められる。したがって判断が全く事実の基礎を欠くか、判断内容が著しく不合理な場合に限り裁量権の逸脱濫用として違法になる。
(3) 本件において、Y市はAの園児が原動機付自転車と接触する事故が過去にあり、同種事故の発生が予想されることやAが本件市道の路線廃止ないしAへの売渡を希望しており、いずれ路線の廃止が見込まれることから「支障がある」とはいえないと判断している。しかし、上述の通りAの園児に生じる危険はAが対処すべき事項であり、Y市長が判断すべき事項ではないし、交通の安全に「支障」があるか否かは現在を基準に判断するものであるから、将来的な路線廃止の予定は考慮すべき事項ではない。したがって、Y市長の判断は多事考慮に当たり、「支障がない」と判断した要件裁量の点につき判断内容が著しく不合理と言えるからY市長の判断は裁量権の濫用に当たり違法となる。
 また、除却命令をしないと判断した効果裁量についても、Aは本来フェンスを設置する権限を有していないのであるから、除却命令によるAの不利益は考慮すべきでないし、仮に考慮をするとしても前述のように園児の安全は職員の配置等で対応できるのであるから、道路交通の安全に比して不利益は小さいもので、それにもかかわらず除却命令をしないとする判断は判断内容が著しく不合理と言える。したがって、Y市長の判断は裁量権の濫用に当たり、違法である。
第2.設問2
1.小問(1)
(1) 「処分」(3条2項)とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接に国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいい、具体的には①公権力性②外部性③個別具体性④法的効果の4つの要素から判断する。
(2)ア. まず、本件路線の廃止は法10条1項に基づいて公権力の主体たるY市長が私人である土地の所有者に対して一方的に行うものであり、公権力性・外部性が認められる。(①②充足)
イ. 土地の所有者に対する法的効果について、道路の区域指定がなされると道路の供用が開始されるまでの間、当該区域内における土地の形質の変更、工作物の新築、改築、増築、大修繕、物件の付加等が禁止される。(法91条1項) また、道路管理者が道路予定区域内の土地の権原を取得した後は当該土地について所有権移転や抵当権の設定・移転が禁止され(法4条)、これらに反した場合には71条1項により除却命令等がなされる。そうすると、土地の所有者は道路の区域指定により自らの土地に対する所有権が直接的に制限されることとなり、かかる法的効果が路線の廃止によって消滅することになるから、土地の所有者に対しては、路線の廃止決定によって私権の制限の解除という法的効果が個別具体的に生ずるということができる。(③④充足) したがって、道路とされる土地の所有者との関係では「処分」に当たる。
 これに対して道路の通行人に対する法的効果について、道路となっている土地は不特定多数人が自由に通行できる(法2条1項参照)のであり、路線の廃止はかかる効果を消滅させるものであるから法的効果は認められる。(④充足) しかし、かかる法的効果は当該土地を通行する個々人に個別具体的に保護された利益ではなく、一般的に保護されているものにすぎない。(③不充足) したがって、道路の通行人にすぎないものとの関係では「処分」に当たらない。
2.小問(2)
(1) Xらとしては本件路線廃止がY市長の裁量権の逸脱濫用に当たり違法(30条)であると主張するものと考えられる。
(2) 路線廃止の根拠となる法10条1項は市町村長が「一般の用に供する必要がなくなったと認める」場合に路線廃止をすることができる旨を定めているところ、かかる文言は抽象的と言える。また、いかなる場合に「一般の用に供する必要がなくなった」と認められるかは専門技術的判断を伴う。したがって、路線廃止に当たっては市町村長に要件裁量が認められているといえる。
(3) ここで、Y市では市道を路線廃止するための要件について内部基準を設けているところ、法にはかかる基準を設けることを要請する文言はなく、Y市が独自に定めたものであるから、本件基準はいわゆる行政規則、具体的には市道の路線廃止にかかる裁量権行使のための基準であるから裁量基準に当たる。そして、裁量基準はあくまでも法的拘束力をもつものではなくこれに従わないことが直ちに違法となるものではないものの、適切な裁量権行使のために定められた基準である事から合理的な理由なくこれに従わないでなされた裁量権行使は裁量権の逸脱・濫用として違法になると解する。
(4) 本件基準によれば市道の路線を廃止するには当該市道に隣接する全ての土地の所有者の同意が必要となるところ、本件道路の路線廃止に当たっては隣接する全ての土地の所有者の同意が得られているわけではない。また、Y市はAから本件道路の路線廃止に関する意見を聴取しているものの、Aは特段、周辺住民の路線廃止に関する意見を取りまとめた代表というものでもなく、Aから路線廃止に関する意見を聴取したことをもって隣接する全ての土地の所有者の同意を得たと見ることもできない。
(5) したがって、Y市長は合理的な理由なく裁量基準に反した裁量権行使を行っているから、かかる裁量権行使は裁量権の濫用に当たり違法(30条)となる。
以上

 

【感想】

・設問1の小問(1)が膨らみすぎた。多分こんなにいらない。メリハリをつける答案の練習が必要。

・訴訟要件については被告適格や管轄については触れないという人もいる。しかし、以前のローで行政法を担当されていた教授(元司法試験委員)がいうには「被告適格や管轄にも配点はある」とのこと。バランスを考えながらできるかぎり触れた方が○な気がする。

・設問2小問(1)で「土地の所有者にとっては処分だけど、通行人にとっては処分じゃない」みたいな書き方をしたけれど、そんな相対的になることってありうるんだろうか…。