平成29年度司法試験の公法系第1問(憲法)の答案を書いてみました。
理論的に誤っているところや不十分なところが多々あるかもしれませんが、温かい目で見ていただければ幸いです。
第1.設問1
1.憲法13条後段(以下法名略)違反
(1) 甲はまず、法15条8号が特定労務外国人に対して妊娠出産を禁止行為としていることが特定労務外国人の妊娠出産の自由を侵害するものであって13条後段に反して違憲であり、国家賠償法上も違法であると主張する。
(2)ア. 13条前段は個人の尊重を定めており、これを実現するために幸福追求権が保障される。もっとも、いかなる自由をも幸福追求権の一内容として保障することは人権の希薄化を招くことから、人権としての保障と人権の希薄化防止の調和の観点から人格的生存に不可欠な利益のみが13条による保障を受ける。
妊娠・出産という行為は女性にしかできないものであり、女性が女性らしさを発揮して自らの子孫を後世に残す、人間として最も重要な行為であって女性の人生を左右する重要な選択といえる。したがって、妊娠・出産の自由も人格的生存に不可欠な利益として13条後段の保障を受ける。
イ. 法15条8号は特例労務外国人に対し妊娠・出産を一切禁じており、女性の妊娠・出産の自由を制約している。また、法18条1項は法15条各号の禁止事由に該当する行為を行った者の収容を定め、収容者は法15条各号の事由に該当することが事実であったことが確認されれば強制出国させられる(法23条1項・2項)のであるから、妊娠・出産に対する萎縮効果は高く、制約は強度といえる。
ウ. 前述のような権利の重要性と制約の強度に鑑みれば、制約の許容性は厳格に判断される必要がある。すなわち、①やむにやまれぬ規制目的があり②規制目的達成のため必要不可欠な規制手段と言えない限り違憲になる。
エ. まず、規制の目的は特定労務における労働力の円滑な供給(法1条)と我が国における文化や秩序との調和を図ることで国民生活の安定や社会経済の発展を図ることにある。これについては過去に欧米が移民を受け入れたことにより社会的政治的軋轢が生じたことを踏まえた目的とされているところ、労働力が確保されても社会秩序が害されれば国民の生命や身体の安全が脅かされることから、かかる目的はやむにやまれぬ規制目的といえる。(①充足)
一方、規制手段について、特定労務外国人の女性が妊娠・出産をすればその間は労務に従事することができないことから労働力の円滑な供給という特定労務外国人制度の目的を没却することになるし、外国人被扶養者が増加することは社会保障の負担増加を招くことになって日本国民と特定労務外国人との間での社会的軋轢を生みだすおそれがある。そのため、妊娠・出産を禁止するという規制は目的達成との関係で必要不可欠といえるとも思える。
しかし、日本で妊娠・出産した特定労務外国人がその後日本に永住することになるとは限らず、一時的に日本で就労して資産を形成し、或いは日本で技能等を習得すれば祖国へ変えることも十分考えられる。それにもかかわらず、特定労務外国人の妊娠・出産を一律に禁止することは行き過ぎた規制であり、必要不可欠な手段とはいえない。(②不充足)
オ. したがって、法15条8号は特定労務外国人の妊娠・出産の自由を侵害するものであって13条後段に反して違憲であり、国家賠償法上も違法となる。
2.33条、31条違反
(1) 次に甲は、法18条1項に基づく特定労務外国人の強制収容が実質的な逮捕であるところ、法は強制収容に令状の発付を要する旨を一切規定しておらず、法18条1項は無令状逮捕になることから33条及び31条に反して違憲であると主張することが考えられる。
(2)ア. 33条の趣旨は逮捕という行為が個人の身体の自由を著しく制約するものであって重大な人権の制約を伴うものであることから、司法官憲による令状審査を通じてその制約が公益保護の観点から真にやむを得ないものであるかどうかを審査させ、不当な人権制約を防止するところにある。
そして、法18条1項が定める強制収容も、行政手続ではあるものの、法15条各号に違反した特定労務外国人を収容施設にとどめ置かせる点で当該外国人の身体の自由を著しく制約するものであり逮捕に類似するものであるから、その許容性を判断するためには少なくとも第三者機関が事前に収容の当否を判断し、令状を発付した上で収用がなされなければならないといえる。
しかし、法は令状発付及びこれに準ずる手続について何らの規定も設けていないのであるから、法18条1項による強制収容は身体の自由を侵害し、令状主義違反にも当たるため33条、31条に反して違憲となる。
第2.設問2
1.13条後段違反
(1)ア.国としてはまず、外国人に対しては妊娠・出産の自由は及ばないとの反論が考えられる。
イ. 人権の前国家性(11条、97条)や国際協調主義(憲法前文第3段、98条2項)に鑑み、憲法上の人権保障はその性質上日本国民に対してのみ保障されると解されるものを除き、外国人に対しても等しく保障が及ぶ。
そして、妊娠や出産は日本人と外国人とを問わず、人間として家族形成や子孫を残すために必要な行為であって国家を問わず保障されることが必要である。したがって、妊娠・出産の自由は特定労務外国人に対しても保障が及ぶ。
(2)ア. 次に、国は特定労務外国人がその認証に当たって法15条各号該当事由を行わない旨を誓約する誓約書を提出している(法5条5号)のであって、妊娠・出産の自由を放棄しているとの反論が考えられる。
イ. 確かに法5条5号によれば特定労務外国人は法15条各号該当事由を行わない旨を誓約する誓約書を提出するものとしているが、この誓約書の提出が特定労務外国人として認証を受けるために義務づけられており、誓約書が提出されなければ特定労務外国人として入国ができないおそれもある。(法4条1項2項参照) そうすると、認証を申請する外国人はその真意に反して方便的に誓約書を提出しているに過ぎないということも考えられ、真に妊娠・出産の自由を放棄したとまでいうことはできない。
したがって、法5条5号の存在をもって、特定労務外国人が妊娠・出産の自由を放棄したとは言えない。
(3)ア. 次に、国としては外国人の権利が憲法上保障されるものであるとしても、それは在留制度の枠内に限って認められるのであり、何を禁止事由とするかには広範な立法裁量が認められるから制約の許容性は緩やかに判断されるのであり、妊娠・出産を禁止事由とすることも立法裁量の範囲内で合憲であるとの反論が考えられる。
イ. この点については、いかなる在留制度を設計するかは国家の主権にかかわる問題であって広範な立法裁量が認められることから制約の許容性は緩やかに判断されるべきと解する。具体的には①規制目的が重要で②規制手段が目的達成との関係で実質的関連性を有する場合には規制は合憲になると解する。
ウ. 本件における規制目的は前述の通り労働力の円滑な供給と我が国の文化や秩序との調和を図るところにあるところ、社会秩序の維持はひいては国民の生命身体の安全という代えがたい法益の保護に繋がることから重要な目的と言える。(①充足)
一方、規制手段について、甲は日本で出産した外国人が必ずしも日本国内に永住するとは限らず、社会負担の増加なども発生するとは限らないということを主張する。しかし、日本で妊娠・出産した外国人が、当初は日本での永住を計画していなかったとしても、実際に子どもが生まれその子どもが日本での生活に馴染んでいくうちに、祖国に帰ることが子どもの成長にとって悪影響となることを懸念して日本での永住を希望するようになる者が多く出ることは考えられる。そして、そのような事態が生ずれば、社会保障の負担や公的サービスの負担が増加し、それを良しとしない我が国の国民との間で政治的社会的軋轢が生じ、文化や秩序の維持が困難となることが考えられるし、その危険性は欧米の実態を鑑みれば相当程度高いものといえる。したがて、妊娠・出産を禁止事由とすることには規制目的達成との関係で実質的関連性がある。
エ. よって、法15条8号は特定労務外国人の妊娠・出産の自由を侵害するものではなく合憲である。
2.33条、31条違反
(1) 国は33条、31条違反の点について、法18条1項による強制収容は行政手続であることから33条及び31条は適用されないとの反論をすることが考えられる。
(2) しかし刑事手続に類似する側面を有する国家権力の行為を行政手続であることを理由に33条及び31条の規制が及ばないとしてしまうと、実質的に刑事手続としての作用を持つ行為を全て行政手続とすることで令状主義や適正手続の要請から逃れられることになってしまい不当である。したがって、行政手続であっても一定の場合においては33条及び31条の規制が及ぶと解する。
(3) 法は被収容者に対して警備官による告知聴聞の機会が付与されることを定めている(法18条2項)が、これは収容された後になされるものであって、かかる規定があるからといって収容の当否が第三者機関によって事前に判断されることがないという事実には変わりない。そして、収用がされれば被収容者は警備官および審査官の管理の下、身体の自由を制約されることになるのであって、かかる状態は実質的に見て逮捕と同視し得るのであるから、法18条1項に基づく収用は無令状逮捕に当たると言える。
(4) よって、法18条1項は33条及び31条に反して違憲であり、国家賠償法上も違法である。
以上
【感想・反省点など】
・法15条8号の規制目的を審査するに当たり、原告の主張で「やむにやまれぬ目的」を簡単に認めるのは印象があまり良くないかなと書いてみて反省した。いつぞやの採点実感で「原告の主張で目的審査を簡単に通過させるな。目的審査でも争え」的なニュアンスのことが書いてあったと記憶している。ただでさえ厳格審査基準は「違憲の推定」が働くのに、目的審査を簡単に通してしまうと憲法センスを疑われるかもしれない。
・「欧米で移民を大量に受け入れた結果、政治的社会的軋轢が生じた」という立法事実が規制目的を基礎づけていると思うが、原告としてはここを叩いてもいいんじゃないかな?と思った。「それはあくまでも欧米での話でしょ。特定労務外国人の妊娠・出産を認めて、外国人が増えたとしても必ずしも日本国内で政治的社会軋轢が生じるとは限らないじゃない」という主張は、(内容の当否は別として)原告が主張することはありえない話ではないと思う。ただ、その場合、そういう話をどこで書くのかがイマイチよく分からない。「日本でも政治的社会的軋轢が生じるか分からないのに、そういう事態を防止することを規制目的を挙げるのは『やむにやまれぬ目的』とは言えない」と主張するのかな?
・33条の話はこれくらいしか書くことが分からなかったし、多分似たような論点を本試験で受けても多分この程度のことしか書けないと思う。(ちなみに、この年は実際に受験経験もありますが、本番の試験で何を書いたかは全く思い出せません・・・)