大学生の時
生まれて初めてちゃんと人を好きになった
もう大好きで大好きで
世の中には「彼」と「ワタシ」と「その他大勢」しか存在していなかった
そしてそのうち「ワタシ」は「彼」に吸収されていってしまって
「ワタシ」と呼べるものはまるで存在しないかのようになってしまった
「彼」がいないときのワタシは
もはやこの世に存在しないことと同じで
透き通っていた
何を食べても何をしても何を見ても
何にもなかった
ワタシ達は上手くいっていたけれど
3つ年上の彼が大学を卒業し
公務員になるために一度実家に戻った頃から少しずつズレはじめる
だって、「彼」のいないワタシは
存在していなも同然だったのだから
ワタシは自分と過ごすしか無かったけれど
ワタシ自身すらどこかにいってしまっていたのだから
寂しくてどうしていいかわからなくて途方に暮れて
彼が猛勉強の最中にワタシの元を訪れてくれる時だけ
「ワタシ」と会える感覚になってしまっていた
意味がわからないが
もうその時はその感覚でしかなかったし
この感覚は
今後も数人の男性とお付き合いするのだが
ずっと付きまとう感覚になるだなんて
この時のワタシは予想だにしなかった
そもそも
自分の人生において
この彼以外の男性を好きになって
その都度どっぷりハマって
自分をもってかれるだなんて
とても想像出来なかった
それくらい
この時の世界は
「彼」と「ワタシ」と「その他大勢」で構成されていた
いや
「彼」と「彼と一緒に持ってかれてしまうワタシ」と「からっぽのワタシという容れ物」
で構成されていた
まぁ世の中の常がそうであるように
こんな状態のワタシには「別れ」がやってくる
「やぁ」といって突然に
でも確実に
「思い遣りがなかったと思うよ」
そう言われた
思い遣り・・・思い遣り、知っている言葉だけど
オモイヤリガナカッタ
言われたのは1度だけだったはずなのに
雨のようにしとしとと
その言葉をワタシの上で降り続けた
降り続けるのその言葉は踵からじんわり湿らせて
どんどん溜まっていった
朝になる頃には
ワタシのカラダの中は
「オモイヤリガナカッタ」でひたひたになっていた
ワタシは彼を無くしたと同時に
「ワタシ」もなくしてしまった
残ったのは
「からっぽのワタシという容れ物」
生きた心地はまったくしなかった
そこから9ヶ月ほどほぼ記憶にないし
今でもあまり思い出せない
思い出すことを拒否しているのかもしれないけれど
ただの「失恋」というには
恋愛初心者のワタシには過酷過ぎる時間だった
「迷惑をかけてしまったら
大切なものはワタシからなくなってしまうんだ
しかも、ワタシごと全部」
これはワタシの此処から先の数10年を決定づける思考となり
仕事をするにしても人と関わるにしても
とにかく「迷惑をかけないこと」に必死になる
その御蔭で築き上げた仕事上の立場ももちろんあるから全否定は出来ないけれど
そのビリーフは
着実にワタシを苦しめ続けていた
ワタシを守る為だと思っていたけれど
ワタシの首をゆっくりと締め続けるものでもあったのだと
今回の出来事で知ることになる