脱走兵 Le Déserteur  

ボリス・ヴィアン Boris Vian

 

沢田研二が歌う「脱走兵」が youtube にアップされている。その影響か、最後の「撃ってください」で両手を上げるジェスチャーまで完コピ(完全なコピー)でこの歌を唄うアマチュアがいる。

でも、この両手を上げる降参のポーズは、ジュリーが始めたものではない。

ジュリーが1989年から始めた東京グローブ座でのACTシリーズだが、ACT Boris Vian は、1990年に上演された。

 

作者のボリス・ヴィアン(Boris Vian)がステージでどんなジェスチャーで歌ったかは、残念ながら映像が残っていない。セルジュ・レジアニ(Serge Reggiani)が1968年に歌った映像が youtube にある。

それによると、最初から手を挙げ気味で、最後は降参のポーズになっている。ジュリーのポーズは偶然の一致だったかもしれないが、時系列的にはセルジュ・レジアニが先になっている。

 

実は、このポーズは、大きな意味を持つ。召集令状を受け取った男が逃亡し、憲兵に見つかった時に無抵抗で両手を挙げているのに銃殺されるとしたら、これは大変な人権侵害だ。フランスは人権重視が建前なので、通常なら銃殺ではなく逮捕だと思う。だから、両手を挙げるポーズは、私は武器もなく無抵抗です、それでもあなたたちは銃撃されるのですか?という消極的な抵抗を表している。

 

これは、あくまでも私の個人的希望だが、この歌の主人公は、逮捕されて獄中で「戦争はしてはいけない。人は殺してはいけない。」と手記を書いていると信じたい。甘いと言われるかもしれないが...