愛しかない時 

Quand On N'a que l'amour

ジャック・ブレル Jacques Brel

 

このシャンソンは、1956年にリリースされたジャック・ブレルの最初のヒット曲だ。

ステージ・デビュー当時で売れない歌手の彼は、映画館の幕間(映画のフィルムを入れ替える時間帯)に舞台に立ち、ギターの弾き語りで客席に向かって歌っていた。

1950年にレコーディング・プロデューサーのジャック・カネッティに見いだされたものの、レコードはさっぱり売れなかった。そして、「愛しかない時」でようやく日の目を見たのだった。

翌年、パリのオランピア劇場に出演してこの歌を披露した。

 

この歌の特徴として、「ブレル風クレッシェンド」と呼ばれる唱法がある。一節歌い終わると直ぐに次の節を続けて歌い、しかも、次第に声を強くして行くという歌い方だ。

最初、静かに始まるこの歌は、徐々にギアを上げて力強さを増して行く。そして、聞く人に強い印象を与える。

 

この歌は、反戦歌との位置付けではないが、2番の歌詞では、戦闘や大砲、(軍隊行進の)太鼓などの言葉が登場する。過酷な現実に直面して僕たちには愛しかない時があるとブレルは歌う。あくまでも愛の歌の位置付けだが、当時ちょうどアルジェリア戦争が行われていたという背景が色濃く歌詞に出ている。

社会的な問題を無視できないブレルの性格が歌詞に反映している。そこが、彼のアーティストとしての最良の資質ではないだろうか?