詩人の魂  L'Âme des poètes

シャルル・トレネ  Charles Trenet

シャルル・トレネ(Charles Trenet)は、1951年に、「詩人の魂」(L'Âme des poètes)をリリースした。

この「詩人」のフランス語は、les poètes で、複数形になっている。詩人たち、つまり、嘗ての詩人たちのためにトレネはこの歌を書いたと思われがちだ。

 
ところが、実は、そうではない。トレネは、友人だったある詩人のためにこの歌を捧げたのだった。

 

その詩人は、マックス・ジャコブ(Max Jacob)という人で、画家でもあった。ダダイズム、シュール・レアリズムの先駆者で、ギヨーム・アポリネールとともに新しい散文詩を確立した人だ。ジャン・コクトー、パブロ・ピカソ、、マリー・ローランサン、アンドレ・サルモン、アメデオ・モジリアニなどと親交があったことでも有名だ。

ユダヤ系であったため、ナチスを逃れて、サン・ブノワ・シュール・ロワール(ロワール地方)に隠棲していたが、1944年にゲシュタポにより逮捕され、ドランシー強制収容所で肺炎のため亡くなった。

生前親交のあったシャルル・トレネは、彼の死を悼み、パリ解放後(戦後)の落ち着いた時点で、この「詩人の魂」をオマージュとして作り、レコーディングした。

シャルル・トレネは、きっとナチス・ドイツに友を奪われた怒り、悲しみが強くあったと思う。でも、それを一切表現せず、しかも、特定の詩人のための歌とせず、「詩人たちの魂は、何年も何年も大衆によって歌い継がれて行く」という歌詞を書いた。

 

初めて聞いた時から、歌詞の中には直接言葉は出て来ないが、全体を通してペーソスというか諦念というか、そういうものが底を流れているような気がしていた。歌の成り立ちを知って、なるほどそうだったのか!とわかった。