サンジャンの私の恋人 Mon amant de Saint-Jean

リュシエンヌ・ドリール Lucienne Delyle

シャンソン界では、昔から季節の歌を唄うのが伝統となっている。「サンジャンの私の恋人」は夏に歌う。銀巴里などの古いシャンソニエ出身の歌手の方々は、今でもそうされる方が多い

ところが、最近はこの歌のできた背景やエピソードを全く知らない人も増えているので、年がら年中歌われている。

大変嘆かわしいことなので、少し解説したい。

 

サンジャン(Saint-Jean)とは、洗礼者ヨハネ(バプテスマのヨハネ)のことで、新約聖書によれば、こんなエピソードが書かれている。

イエス・キリストを身籠ったマリアが親戚のエリザベトがお産だというので手伝いに行き、マリアが生まれた赤ちゃん(サンジャン)を見た時、 お腹の中のイエスが飛び跳ねて喜んだ。

伝承によれば、このサンジャンが生まれたのが6月23日の夜で、その半年後の12月24日の深夜にイエスが誕生したことになっている。

つまり、夏はサンジャン、冬はノエル(クリスマス)という半年毎のお祭りがあったわけで、その時期は、夏至と冬至にほぼ一致している。キリスト教がヨーロッパの文化に受け入れられる(インカルチュレーションされる)過程で、夏至のお祭りとサンジャンの誕生祝いが結びついたのだと推測される。

 

それで、そのサンジャンの火祭りで、ミュゼットを演奏する踊り場に多くの若い男女が訪れ、いろんな出逢い(恋愛の始まり)の機会があったというわけだ。

 

だから、「サンジャンの私の恋人」の、サンジャンは地名ではなくて、「サンジャンの祭りで知り合った私の恋人」という意味で、夏の歌だと言われる所以だ。