安井かずみがフランソワーズ・アルディの影響を受けて、キッチンに立った話を書いたところ、イマイチ理解されていないフシがあるので、もう少し説明してみたい。

 

 
フランソワーズ・アルディが自宅でキッチンに立ち料理を作ったというのは、女性はいつも家にいて家事をし子供を育てるという保守的な男社会の制度に甘んじたからではない。
外で働いていることでいくら忙しくても、女性なら料理を作るという家庭におけるクリエイティブな作業を放棄してはならない、というフランス女性の気概というか一本筋の通った考えに基づいている。

 

安井かずみが尊敬してやまなかったタンタンことキャンティの女主人・川添梶子も「料理ができなければ、いい女とは言えないわよ。」といつも言っていた。

だから、安井かずみは、加藤和彦と結婚してからは、夜遊びをやめて積極的に料理に取り組み、休日に友人たちを家に呼んで夫婦で作った料理を振る舞うという、子供のいない共働き夫婦の新しい理想像を世間に提示したのだ。(詳しくは、「ワーキングカップル事情」という書籍になっている。)

 

これが私の言うジェーン・バーキン型からフランソワーズ・アルディ型への進化なのだ。

仕事をする女性が料理を含め家事を自分でやるのは、進化ではなく退化で時代遅れだという話は、まったく次元の違う話と言える。女性の社会進出とか、ワークシェアリングとか、そういう社会制度の話ではなく、フランス女性の心意気のことを私は説明している。料理を作ることの重要性を認識する必要がある。