それはあなた Inoubliable 

アズナヴール  Charles Aznavour  

 

この歌は、シャルル・アズナヴールの作曲も勿論素晴らしいが、特にピエール・ドラノエの作詞が優れている。

 

"Inoubliable" とは、「忘れることができない」と言う意味で、恋愛すると破滅に至りそうな危険な女性、つまりファム・ファタールだと気付いているのだけれど、でも忘れることができず、のめり込んでしまうという男心(おとこごころ)を歌ったものだ。

 

日本語歌詞では、「それはあなた」というタイトルになっており、しかも女性が歌えるようになっている。タイトルを見ただけで私は失望したが、歌詞を読むとかなり落胆した。

「神様がくれた宝物」とか「神様が決めた人」とか、原詞から乖離してしまっていて、「悪魔なの天使なの」と少し疑うものの、「命あるかぎり、あなただけに愛を燃やし続ける」と締めくくっている。

原詞では、Mi-ange et mi-démon(半分天使で半分悪魔)となっていて、「私」自身がその正体をわかっていて、危ないと知りながら、でもその美しさに魅せられて道を外してしまうわけで、日本で言えば差し詰め「牡丹灯籠」のような話となっている。

単純な運命の人とのラブソングにして欲しくない。