行かないで Ne me quitte pas

ジャック・ブレル Jacques Brel

 

ジャック・ブレルは、このシャンソンで、恋人と別れたくないという気持ちをいろんな表現で書いている。ただ一つの「別れたくない」というテーマを膨らませ、一大抒情詩になっている。

雨の雫の真珠や、黄金と光、愛の法典、火山の噴火、溶岩で焼けた土地などの言葉を使い、イマジネーション豊かに歌詞を書いている。

その豊かな想像力をフランス人は賞賛している。 

 

ところが、日本語歌詞になると、内容は一変してしまう。菅美紗緒さんの訳詞が有名だが、他の訳詞もそれほど差はない。日本独特のセンチメントとして、他人の苦しい・悲しい話に共感するという性質があり、その感情を引き出すような歌詞が書かれることが多い。

つまり、「あなたが去ってしまうのが悲しくさびしいことなので、いかないでほしい」と自分の想いをただ綴っているだけに過ぎず、元の歌詞に比べればあまりにも内容が乏しい。

でも、そのシンプルさこそが、このシャンソンの主人公の別れの辛さ、心の苦しさ、悲しさを強調していて、日本人の心を打つことになる。

逆に言うと、ブレルの元の歌詞では、日本人には理屈っぽいというか、架空のこと、空想のことを別れ際にいろいろ想像して言っている往生際の悪い男という風に感じられて、共感できないことになる。

 

仏日間でセンチメントが違うのだから、ジャック・ブレルの歌詞を日本語にすると別物になってしまう。本当は、無理に日本語にしようとせずに、そのまま原詞でフランス語のまま聴くのが一番良いのだが...