パリ祭 

À Paris dans chaque faubourg

 

 

1933年のルネ・クレールの映画「巴里祭」(原題は7月14日)では、主題歌として "À Paris dans chaque faubourg" (巴里恋しや)René Clairの作詞、Maurice Jaubert と Jean Grémillon の作曲)が Lys Gauty(リス・ゴーティ)によって歌われた。

その後、日本語歌詞がつけられて、「パリ祭」という邦題がつき今でも歌われている。毎年7月のシャンソンの祭典・パリ祭でもエンディングで会場一体となって合唱している。

 

ところが、この歌、本場のパリでは、評判がイマイチだった。

リス・ゴーティは、前年(1932年)にクルト・ヴァイルの「三文オペラ」からの一曲である「海賊の花嫁」を歌って大ヒットしディスク大賞を受賞した。そして、翌年に同じクルト・ヴァイルの作曲で「セーヌの嘆き (La complainte de la Saine)」と「あんたを愛していないわ (Je ne t'aime pas)」をリリースしたが、前曲のイメージが強すぎたのか、それほど流行らなかった。そして、その流れの中でリス・ゴーティは既に旬を過ぎていて、映画の主題歌「巴里恋しや」をリリースしたものの今一つ人気が出なかった。

 

日本では映画ブームで、「巴里の屋根の下」以降、「巴里の空の下」や「枯葉」など映画の主題歌・挿入歌がヒットする傾向が強かったが、フランスでは当時シャンソンはラジオから流行ることが多かった。

 

かくして、フランスであまり知られていない"À Paris dans chaque faubourg" が、革命を知らない日本人によってフランスの革命記念日(7月14日)に近い日程でホールを借りて大合唱されているという奇妙な現象が毎年繰り広げられているわけだ。 

 

参考図書:蘆原英了「シャンソンの手帖」新宿書房