幽霊 Le Revenant 

シャルル・トレネ Charles Trenet

 

シャンソンのお店で夏になるとよく歌われるシャルル・トレネの「幽霊」なのだが、日本語シャンソンの方はどうも私には違和感がある。

CDシングルになったクミコのヴァージョンを含め、皆さん、一様におどろおどろしく歌っておられる。

嘗てパリの劇場でシャルル・トレネ(Charles Trenet)が歌っているのを聴いたことがあるが、洒落っ気のある軽妙な印象を受けたのをはっきり覚えている。

 

どこでボタンを掛け違ってしまったのか?

 

原因の一つは、深刻で荘厳なイントロかもしれない。トレネはバンドの伴奏で歌うので、タッタラタターンというドラムが入って、軽快な感じを最初から醸し出している。ところが、日本語シャンソンでは、伴奏はピアノだけのことが多いので、荘厳な暗いイントロからいきなり歌に入る。

 

二つ目は、「幽霊」という題名だ。「幽霊」は日本では、成仏できなかった霊が人間界をさまよい、時々人を脅かしたり、苦しめたりするという悪いイメージがある。ところが、フランス語のタイトル le revenant(戻り来る者)の言葉の語源 は、カトリックの死者日に死者の魂が家族のもとに戻って来るという良いイメージである。トレネ・ヴァージョンでは、結局、その戻ってきた者は、自分の少年時代の魂だっていうオチとなっている。

 

三つ目は、日本語に訳しきれない部分が実は重要だと言うことだ。金槌(かなづち)が壊れたり、オペラ歌手がそれを修理したり、ファルシー(野菜をくり抜いて肉を詰めた料理)が出て来たりして、冗談っぽい歌詞が数多くあり、それらは日本語歌詞では省略されてしまっている。

 

四つ目は、日本のシャンソンに関わる人たちがマジ過ぎることだろう。私が知っている日本人歌手の中で洒落っ気のある軽妙な人はごく少数で、ほとんどの人はシャルル・トレネを歌うのに向かない気がする。