昔、彼女に付き合って服を買いに専門店に行った。

「ソニア・リキエルなんか似合うんじゃない?安井かずみも着てるらしいよ。」と言うと、「そうなのよ、私も良いと思ったんだけど、うつみ宮土理が愛用してるって聞いて、ちょっとね。」と顔をしかめるのだった。

 

彼女と同じようなことを五木ひろしで感じたことがある。

五木ひろしが音楽番組で歌っているのを見て、「どこのテーラーで作ったんだろう?ダサい。」と思っていたら、或る日インタヴューで、ベルサーチを着ていると言ったので驚愕したのだ。

 

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当時、五木ひろしは、田舎のオバサンたちに絶大な人気を誇っていた。おらが村の好青年のイメージで売っていて、あんなに頑張っているんだから、豪邸に住んで、綺麗な奥さんもらって、外車に乗って、イタリアブランドの服を着ても、「立派になったねぇ、ひろしちゃん。」と、まるで親戚の子が出世したかのように喜ぶのだった。

 

ところが、私たちのように都会で育ったか、あるいは田舎を否定して都会に出て来た若者たちにとっては、面白くない。どうしてあんな農村青年の代表のような顔をして演歌を歌っている奴がベルサーチを着るんだ!となるわけだ。

そうこうするうちに、ノーブランドの服をさりげなく着こなすのが都会的という新しいコンセプトが登場し、僕たちはベルサーチとともに五木ひろしを漸く否定することができたのだった。

 

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