皆さまは、秦豊吉なる人物をご存知だろうか?

7代目松本幸四郎の甥で、東京帝国大学法科大学独法科を卒業後、三菱商事に入社、ベルリン支店開設に携わった。一高時代には、芥川龍之介・菊池寛・久米正雄と親交があったと言う。1933年、東京宝塚劇場創立の際にブレインとして、阪急・東宝グループのオーナー・小林一三に三顧の礼をもって迎え入れられた。

1940年には、東京宝塚劇場の社長となり、これからの時代はオペラに代わって庶民が気楽に楽しめるミュージカルが主流になると考えた。

前置きが長くなるが...

 

 

そして、その秦豊吉が1951年、帝劇(東宝系)でコミック・オペラ「モルガンお雪」をすることになり、越路吹雪を主役に抜擢したのだった。

実は、秦も演出の菊田一夫も宝塚を観たことが無かったと言う。ただ、越路吹雪の評判は聞いていて、会ってみて将来性を感じたのだとのことだった。

この辺りの経緯が少し怪しいと私は思う。

秦と菊田が抜擢したというより、小林一三の意向が裏にあったのではないかと推察する。トップスターが東宝以外の映画会社に引き抜かれる中で、越路を手放したくなかったのではないかと。