私がフランス留学したのは、40年近く前で、クラスメイトに「日本ではまだ死刑があるのか?」と半ば批判的な言い方で尋ねられた想い出があります。その頃、フランスで死刑が廃止になって間も無くて、アメリカ人のクラスメイトも同じ質問を受けて、困惑していました。(両国とも21世紀になり20年が過ぎた今でも死刑制度が存在しています。)

その少し前(1980年)に、ジュリアン・クレール(Julien Clerc)が“L'assassin assassiné”(殺害された殺人者)という問題作をリリースしています。

 

 

このシャンソンは、ジュリアンがロベール・バダンテ(Robert Badinter)という法廷で死刑求刑に反対した弁護士と出逢ったことから出来たものです。

 

 

当時のフランスでは、死刑に賛成する人たちも数多くいて、法廷を傍聴したジュリアンは、その騒然とした雰囲気に驚いたのだそうです。バダンテ弁護士は、死刑賛成者から様々な抗議を受け続け、法廷の裏口から警護されながら外に出なければならず、家族も安全な場所に退避させなければなりませんでした。

ジュリアンは、トゥルーズからパリへの夜行列車の中で、同弁護士とほとんど寝ずに話をして、感銘を受けて、歌にすることを決意したそうです。歌詞は、ジャン・ルイ・ダバディに依頼しました。

 

この歌をリリースした後、ジュリアン自身もいろんな人から批判を浴びて、ある女性から長々とした手紙で、「間違った説を弁護して人々を誘導するのでやめて欲しい。」と説得を受けたこともあるそうです。

 

ジュリアンは、RTL の Bonus Track で初めてこのシャンソンについてのエピソードを語ったのですが、それが死刑廃止の40年後だったというのが、このテーマへの賛否対立が根深かったことを物語っています。

 

 

出典:RTL Bonus Track 2021.10.04