アンリ・サルヴァドール(Henri Salvador)の“Jardin d'hiver”(冬の庭)について、今回は、真説をご披露したいと思います。
幻滅される方がおられるといけないと思い、これまでコメントせずにいましたが、あまりにも違った解釈をしている方がおられますので、敢えて書こうと思いました。
この歌は、カレン・アン(Keren Ann)とベンジャミン・ビオレ(Benjamin Biolay)がSF映画「ソレイント・グリーン」(1973年・アメリカ)から発想を得て作ったものです。
その映画のストーリーは...
2022年のニューヨーク。人口増加が止まらず、世界は食住を失った人間が路上に溢れ、一部の特権階級と多くの貧民という格差社会となっていました。肉や野菜といった生鮮食料品は希少で高価なものとなり、特権階級以外の一般大衆は、ソイレント社が製造する「ソイレント・グリーン」の配給を受けて、細々と生き延びていました。
“Jardin d'hiver”の歌い出しの“Je voudrais du soleil vert”の“du soleil vert”は、「ソイレント・グリーン」のフランス語訳です。食糧の名前なので、部分冠詞の du が使われています。
だから、この歌詞は、日本語に訳すと、「私は、ソイレント・グリーンが食べたい」となります。
そして、映画のストーリーの続きですが...
ある日、ソイレント社の幹部が殺害され、ニューヨーク市警の刑事・ソーンが捜査を担当します。その幹部の住居には、ソルという老人の語り部(この映画の設定では、特権階級は物語を憶えていて語り聞かせる老人を雇っていることになっている)がいました。ソーン刑事は、ソルの協力を得て捜査を進めようとしますが、様々な妨害に合います。
雇い主を失ったソルは、ソイレント・グリーンの秘密を知り絶望して、「ホーム」(公営安楽死施設)に行き、自らの命を絶とうとするのですが、亡くなる直前に映像を見せられます。
だから、“Jardin d'hiver”の歌詞には、
Je voudrais de la lumière
Comme en Nouvelle Angleterre
Je veux changer d'atmosphère
Dans mon jardin d'hiver
ニューイングランドのような光が欲しい
私の冬の庭の雰囲気を変えたい
と表現されているのです。「冬の庭」とは、この死の直前に見せられる映像のことであり、ニューヨークに住んでいた人だから、「ニューイングランドの光」という語句になるわけです。
さらに歌詞の中に「フレッド・アステア」や「プロペラ機」が出て来るのは、映画の登場人物ソルの思い出をイメージしてのものです。
映画のストーリーの続きは、ネタバレになるので申し上げませんが、SF映画から発想を得た奇想天外なシャンソンだということは、ご理解いただけたと思います。
出典: La Croix le 27/08/2021