「シェルブールの雨傘」についていろいろ調べていて、これはあまり知られていないと言う事実を書きたいと思います。今回は、2回目です。

 

 

この映画のストーリーには、アルジェリア戦争が深く影を落としています。

愛し合う若い二人。ジュヌヴィエーヴGeneviève)の彼、ギ(Guy)に召集令状が舞い込み、二人は引き裂かれてしまいます。

ところが、この映画には、一切戦争シーンが出て来ません。ミュージカル映画に戦場は相応しくないからでしょうか?

 

実は、これには訳(わけ)があります。

監督・脚本のジャック・ドゥミが 1931年生まれ だというのが味噌です。

彼は、パリ解放(第二次大戦)の1944年には13歳で、徴兵される前に戦争終結しています。

そして、アルジェリア戦争勃発の1957年には26歳で、徴兵されるには歳を取っていました。

つまり、彼は、戦争に行ったことのない世代なのです。

だから、戦場を体験しておらず、そのシーンは描くことができなかったのだと思います。

 

ジャック・ドゥミは、完璧主義者で、シーンと台詞を全部自分の頭の中で組み立てて、それを役者に忠実に演じさせるタイプの映画監督です。そんな彼が、「想像で描いたのではパーフェクトな画像を作ることができない戦場」という場所を舞台にすることはできなかったのだと思います。

あるいは、もしかしたら、戦地経験者から「こんなのは違う」と指摘されるのが怖かったのかもしれません。

とにかく、ひたすら戦地へ行った彼を内地で思い続けたり、忘れようとしたりするシーンしか描いていないのです。

 

そう言えば、ジュヌヴィエーヴと結婚するローラン・カサール (Roland Cassard)は、ジャック・ドゥミと同じ戦争の狭間の世代で、その彼に幸運にも戦地にいかなかった自分を投影しているのかもしれません。少し考え過ぎかもしれませんが...