2017年に書いた「シャンソンのような小説」の再掲載をしています。

今日は、ミシェル・ポルナレフの「シェリーに口づけ」です。

 

シェリーに口づけ

 

 彼女に出逢ったのは、あのパーティの晩だった。

 一目見た瞬間に「この娘(こ)だ。」と思った。天から落ちて来た稲妻が僕の心臓を打ち抜いくhた、って言ったら、大袈裟だよ、って言われてしまうだろうけど。僕は自分の直観を信じるタイプなので。

 彼女は、友達の女の子と二人で来ていて、薄い水色に白い花柄のフレアスカートのワンピースを着ていた。連れの彼女が胸元が大きく開いた白いブラウスに黒のタイトなミニスカートだったので、男たちは皆そっちの方に気を取られていたけど、僕にとっては、パーティ会場全体の中で一際輝いて見えていた。

 彼女。

 そう、僕は彼女の名前を未だ知らない。年上なのか年下なのかも知らない。でも、そんなことはどうでも良い。見て、近づいて、話しただけで、僕には彼女しかいないことがわかるんだ。

 その日の帰り道、車の運転席に座って信号を待ちながらほくそ笑んでいる自分がいた。出不精で滅多にパーティなんかに行かない僕だけど、大好きなギタリストが演奏するってことで参加したんだけれど、まさかそこに運命の出逢いが待っているとは思いもかけなかった。そうだ、この気持ち、この嬉しさに合う曲を聴こう。カーオーディオでコール・ポーターの「セ・マニフィック」を選択する。アヴァロン・ジャズ・バンドがカヴァーしたやつだ。ヴァイオリン、アコースティック・ギター、ベースのトリオの伴奏で、可愛い声の女性ヴォーカルが歌う。

 人生ってなんて素晴らしい。

 僕のその時の心境だった。彼女のような女性(ひと)にとうとう出会えた幸せ。

 これまでの僕は、孤独の中にいた。親友に裏切られたことがきっかけで、人が信じられなくなり、自分の殻に閉じ籠ることが多くなった。知り合いがいそうなパブやカラオケは避けてカウンターだけのある小さなバーを好むようになり、そこでブランデーやテキーラやジンなどの強い酒をひたすらストレートで飲むばかりだった。

 そして、深酒した日は、いつも真夜中に同じ夢を見て、飛び起きた。それは、こんな夢だ。

 僕は、ガラスで創られたステージののような処にいて、そこは丘の上で、下は崖になっている。僕は、裸足で立っていて、足の裏でそのガラスの冷たくて滑らかな感触によって、下の方へ滑り落ちる恐怖に怯えている。周りには誰もいない。左足がツルっと前に出て、右足が踏ん張れず、身体が前のめりになる。掴まる物は何もない。前へ滑る、止まらない、滑る、ああ!

そうして、目が覚める。

 でも、彼女がいれば、そんな孤独の恐怖から抜け出せるんじゃないかと思う。

 次のパーティで彼女に出逢えたら、僕は勇気を出して、声を掛けることだろう。

 

 やあ。僕と一緒においで。もっと近くにおいで。僕には君が必要なんだ。君の声、君の姿が無いと不安になる。寂しい。

 

 こんなストレートな言葉。彼女は、きっと驚いて、逃げたくなるに違いない。でも、傍にいて欲しい。彼女は、僕を、あの孤独、そうガラスのステージのような孤独の場所から救い出してくれるはずだから。その代わり、僕は、僕の全てを彼女に捧げるつもりだ。

 

ずっとずっと前から君のような女性(ひと)と出逢うのを待ち望んでいたんだよ。涙が出るくらい切ない気持ちで。僕の恋人になる女性(ひと)を。僕の全てを捧げよう、君に。

 

Tout Tout Pour Ma Cherie par Michel Polnareff

Tout, tout pour ma chérie, ma chérie
Tout, tout pour ma chérie, ma chérie
Tout, tout pour ma chérie, ma chérie
Tout, tout pour ma chérie, ma chérie

Toi, viens avec moi
Et pends toi à mon bras
Je me sens si seul
Sans ta voix, sans ton corps
Quand tu n'es pas là
Oh oui, viens!
Viens près de moi
Je ne connais rien de toi
Ni ton nom, ni l'âge que tu as
Et pourtant tu ne regretteras pas

Car je donne

Je suis sur un piédestal de cristal
Et j'ai peur un jour de tomber
Sans avoir personne à mes côtés
Mais si tu viens
Viens avec moi
Je sais qu'il y aura
Quelqu'un qui marchera près de moi
Qui mettra fin à mon désarroi

Toi, viens avec moi
J'ai trop besoin de toi
J'ai tant d'amour à te donner

 

Laisse-moi, laisse-moi te serrer contre moi
Oui, viens avec moi
Et ne me quitte pas
Je t'attends depuis tant d'années
Mon amour, tant d'années à pleurer