割り箸 | JEA blog (JEA:環境分析会社、計量証明事業所)

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1. 割り箸をなくせば森を救えるのか?


 割り箸が国内の森林破壊の元凶のように言われ、箸を持ち歩こうという運動が盛んだった時期がある。1980年代はじめのことだ。そして、そうした意識は、現在もなお消えてはいない。「割り箸の使用を控えれば、木材の消費量が減り、国内の森林保護に貢献できる」と。果たしてそれは、本当なのだろうか? 割り箸は、もともと建築材や樽、桶を作る時の端材、間伐材などを有効活用するため作られ始めたもの。その歴史は古く、江戸時代後期にさかのぼる。明治時代には、衛生面への配慮から料亭で割り箸が出されるようになったが、それは高級な店に限った話。ほとんどの飲食店では、洗って使える塗り箸を使っていた。しかし、昭和初期になると割り箸製造機が誕生。大量生産が可能となり、飲食店の多くが割り箸を置くようになったのである。
 1970年代以降は、外食産業の急激な発展、衛生面への関心の高まりなどにより、割り箸の需要が激増。国内生産が追いつかなくなる。結果、量と安さを求めて、外材の割り箸を大量に輸入するようになったのだ(1膳当たりの販売単価は国産品3円、中国製は1円程度)。つまり、割り箸と国内の森林破壊とをつなげて考えるのは、明らかに“おかしな行為” なのである。



2. 輸入割り箸の99%が中国産の問題


 林野庁資料および貿易統計によると、2006年に日本に輸入された割り箸は245億膳。これは、日本の割り箸消費量の98%にあたる。そして、そのうちの99%が中国産。国内での生産量は5億膳にすぎない。つまり、「割り箸=中国産」と考えてよいのが現状だ。しかし、中国はもともと森林が豊かではない。日本は国土の約7割が森林なのに対し、中国は2割ほど。そのため、木材のほとんどをロシアなどから調達しているのである。ロシアの森林はシベリアと極東地方に多く、それらは永久凍土の上に存在する。仮に大規模な伐採のため、日照が裸地に差し込んで永久凍土は溶けてしまったと仮定すると? 永久凍土だった場所は、湿地や池、沼となり、森林の再生が不可能になる。さらに、永久凍土はCO2やメタンガスといった温室効果ガスを大量に放出。温暖化に影響を与えることにもなる。
 割り箸は本来、森林資源の有効活用のために作られた。しかし、中国からの輸入に依存している現在では、割り箸を作るために他国の木が切られるようになってしまったわけだ。亜寒帯地域や熱帯雨林から、木材が乱伐・乱獲されることが世界的な問題となっている昨今、この現実は間違いなく「不都合」なように思えるが、いかがか。



3. 日本の森林資源はあり余っている?


 1992年に開催された地球サミットでは、森林消失が環境の悪化につながっていることを踏まえて、持続可能な森林経営を求める決議がなされた。にも関わらず、2000年にWWF(世界自然保護基金)とWCMW(世界自然保護モニタリングセンター)が共同で行った調査では、8千年前の地球と比べて、森林が3分の1に減ったと報告している。「木を切るな、緑を守り増やそう」と、声高に叫ばれてはいるものの、世界の森林は確実に減っているのだ。
 しかし日本の場合は、少しばかり状況が違う。日本は国土の約7割が森林という、世界有数の森林大国なのだが……。森林の4割は人工林であり、その大量の人工林が、育ちきった状態で伐採もされず、放置されているのが現状。つまり、本来の人工林の活用サイクルが、狂ってしまっているのだ。
 日本の木材自給率は、2005年度でわずか2割弱。8割以上が輸入に頼っている状態で、その中には産地が指定されていないものや、違法伐採が相当数混ざっているという。国内の有効な森林資源を放置し、海外の原生林を破壊してまで、木材を輸入している日本。この国においては、森林=「切らずに守るもの」ではなく、「切って使わないといけないもの」といえるだろう。



4. 国産材割り箸が日本の森を救う!?


 国内の森林の荒廃ぶりはすでに述べたとおりだが、実をいうと、日本は荒廃した森林資源を早急に活用し、「元気な森林循環」を作る必要に迫られている。
 2005年に発効された「京都議定書」において、日本は2008年から2012年の間で、温室効果ガスの総排出量を6%削減すると公約。その6%のうちのおよそ3分の2に相当する、3.8%を森林吸収でまかなうとしているからだ。
 もう少し説明を加えると、現在の国内の人工林は、ほとんどが戦後に植えられたもの。「生長が活発な20~30年目頃は多くのCO2を吸収し、炭素を固定するが、その後は徐々に吸収量が減っていく」という木の特性を考えれば、CO2の吸収率が「非常に低い状態」にあるといえる。したがって、いまのままでは、自らが公約した数値を達成することは困難であり、早い時期に、苗木を植える→育てる→収穫する→上手に使うという、人工林のあるべき姿に戻す必要があるのだ。
 以上をふまえて考えてもらえれば、我々にとってもっとも身近な木材製品=国産割り箸が、“森林保全のために必要な存在”であることが、より明確にわかってもらえるのではないだろうか。



5. 荒廃が進む日本の森林


 日本の森林の4割は、間伐や下草刈りなどの手入れが必要な人工林。しかし、現状では、その人工林が荒れ放題になっている。なぜ、日本の人工林は荒廃し、放置されているのか? そのいちばんの理由は、1961年に木材貿易が自由化され、安い外材が大量に入ってくるようになった点にある。国産材のシェアが外材に奪われてしまったことで、個人経営者の森林整備の資金が減少。その結果、森林が荒れ放題になってしまったのである。ちなみに、日本の森林面積の約58%は私有林。つまり、全体の約半数が打撃を受けたことになるのだ。
 現在では、林業で生計を立てる個人経営者も減り、森林の多くを森林組合が整備しているが、整備のための国の補助金はというと、決して十分とはいえない状況。「予算をもらえるから、とりあえず木は切る。しかし、それを運び出しても売れないから、そのまま放置する」。そんな悪循環が生まれ、森林には、打ち捨てられた木が山積みになっているという。加えて、しっかりとした森林整備がなされていないために、木の根が浅くなり、大雨のときに土砂崩れが起こりやすくなるなどの問題も生じている。
 森林経営の悪循環を断つこともが、わが国にとっての重要な課題なのである。



6. 国産材割り箸はこう見分ける


 このMY箸特集を読んで、「できるだけ国産割り箸を使おう」と考えた読者もいるかもしれないが、割り箸全体における国産割り箸のシェアはたったの2%。その生産量は圧倒的に少ない。そもそも、国産割り箸と輸入割り箸をどうやって見分ければいいのか? そのひとつの方法として覚えておきたいのが、「3.9(サンキュー)グリーンスタイルマーク」の存在だ。
 林野庁では2005年から、国産材製品を使うことで日本の森林を健全にし、CO2をたっぷり吸収する元気なものにしようとする普及啓発活動「木づかい運動」を行っており、「3.9グリーンスタイルマーク」は、その運動を象徴するロゴマーク。見方を変えれば、国産材製品であることを表すマークともいえるわけだ。とはいえ、現段階でマーク付きの割り箸を取り扱っているのは、ミニ・ストップをはじめとする一部の店舗のみ。国内の森林循環や海外の森林保全などに配慮するなら、やはりMY箸との使い分けを実践するのがよさそうである。


(記事提供:ECO DO)