「あ、佐倉!ありがとー!どうしようかと思っちゃった」

冷静な加藤が亜矢の登場に心底ホッとしあた顔をするので、どれだけ忙しかったのかが推測できる。

部屋の外には10人ほどの飼い主が並び、その上、診察している患畜も2頭。

「藤島先輩や中平先生は?」

「藤島くんは連絡とれない・・・昨日飲むって言ってたから、つぶれてるんじゃないかしら。

中平先生は群馬にご旅行、八頭先生は出張・・・」

「・・・・・・」

「昨日の予約の時点では3頭しか入ってなかったのよ・・・」

「はあ」

ロッカーから少し汚れた白衣を取り出して身に着けながら、ざっと檻に入っている動物を見回す。

5,6頭は見ない顔の犬猫が入っている。水やエサが切れ掛かっている患畜も何頭かいた。

「わたしはエサと水やりとシートの取り替え・・・で、いいんですね?」

「うん、それが終わったら教授の手伝いお願い」

「わかりました」

言うが早いが、檻を開けてシートの取り替えにかかる。

がんばれば早く終わるし、唯と話す時間もできる。

沢山話したいことがあるんだ。


・・・


2時間もすると、飼い主の列も切れ、一時の忙しさがうそのようになる。

「ふう・・・」

小さく息をつく。

檻の中には、頭数のわりにはやけに静かな動物たち。

その檻のひとつに近づく。

数日前に入院してからずっと元気が無い・・・白黒ブチのうさぎだった。

「ヒロー・・・ヒロ、遊ぼう?」

檻を開けて手を出してみる。

のっそりと顔を上げたうさぎは、手のにおいを嗅いだが、それだけだった。

「・・・んん」

「やっぱり元気がないかね?」

「教授・・・」

「ケガ自体は大したこと無かったんだがねぇ。食べられなくて体力が落ちているんだ」

「・・・・・・」

教授は亜矢の頭の上から覗き込む。

ヒロは少しだけノソノソと後ずさって、そのまま丸くなった。

「普段食べているものと違う・・・とか?」

「そうでもない」

「・・・さびしい、とか」

「かもなぁ」

ならば、と思って抱き上げてやっても、うさぎはうっとうしそうに蹴りつけて逃げ出し

また、丸まってしまう。

「・・・・・・」

「飼い主は2週間ほど海外出張で、迎えに来れないそうだ」

「無責任な・・・」

「預かると言ったからには、わたしらの責任さ」

「でも、食べないんじゃ・・・」

「うむ・・・点滴でもせんといかんかもなぁ」

亜矢は少しやるせない気持ちで見つめる。

ユキと重なるのだ。

同じ・・・というには大雑把過ぎる共通点。うさぎというだけ・・・といえば、たしかにそれだけ。

それでも・・・ユキはフッと食べなくなったと思ったら、死んでしまった。

このうさぎはユキと違ってまだ若い、そんな事になる前に救う手段はいろいろあるだろう。

それでも、なんだか放っておけない。

「かまってあげたら、少しは元気になるかな・・・」

「うむ・・・あまり無理はしないでくれよ。臆病なやつじゃないようだが、うさぎは結構デリケートだからな」

「・・・はい」

それから1時間ほど、なんとかヒロと打ち解けようとしたが、どうしてもヒロはエサに手をつけてくれなかった。



・・・・・・

・・・



7へ続く・・・


これまでも長文で読むだけで疲れると思いますが

次回はさらに長い内容になると思います。


次回で完結できるだろうか・・・